弁護士依頼時の一般的留意点

第0 目次

第1  訴訟提起前の留意点
第2  訴状等の送達
第3  訴訟提起後の留意点
第4  裁判期日の留意点
第5  第一審判決を取得するまでの期間
第6  訴訟上の和解に関する留意点
第7  判決言渡し,訴訟費用及び予納郵券の返還
第8  上訴の取扱い
第9  判決の確定時期
第10 判決の場合,債権を回収できるとは限らないこと
第11 一定の取立行為の自粛
第12 敗訴した相手方が破産手続等に移行した場合の取扱い

*1 裁判所HPの「公表資料」に,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(奇数年7月上旬頃に発表)等の資料が掲載されています。
*2 平成29年7月21日,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第7回)が裁判所HPに掲載されました。 
*3 裁判所HPの「裁判手続の案内」に,裁判手続に関する公式の説明が載っています。
*4 民事訴訟マニュアルHPに民事訴訟の書式が載っています。
*5 弁護士職務基本規程40条は,「弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由なく、これを妨げてはならない。」と定めていますから,依頼者は,現在頼んでいる弁護士から他の弁護士に乗り換えることはできます。
   ただし,現在頼んでいる弁護士との間での,弁護士費用の清算の問題は残ります。

第1 訴訟提起前の留意点

1 総論
(1)   訴訟手続は,依頼した弁護士と依頼者の二人三脚の作業になりますから,依頼した弁護士限りで遂行できるものではありません。
   そのため,依頼した弁護士は,依頼者に対し,訴訟提起前はもちろん,訴訟提起後であっても,相手方の反論に応じて様々な事情を追加でお聞きしたり,追加の資料提供をお願いしたりしていくこととなります。
(2) 訴訟になった場合,客観的に真実であっても,証拠がない限り,裁判所が真実と認めてくれないことがあります。
   そのため,訴訟の勝敗は証拠の有無に左右されるところが非常に大きいです。
   ただし,「裁判所は,判決をするに当たり,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により,事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。」(自由心証主義。民事訴訟法247条)とされていますから,実質的基準で判断を下してくれます。
(3) 例えば,交通事故に基づく損害賠償請求訴訟の場合,後遺障害に関する主治医の診断内容を「越える」内容の後遺障害が,自覚症状の訴えだけで裁判所で認定されることはほぼあり得ません。
   むしろ,主治医の診断内容の真実性についてまで加害者側の損害保険会社が争ってくる結果,裁判所による後遺障害の判断は,主治医の診断内容よりも控えめなものになってしまうことが多いです。
   ただし,私の経験上,依頼者が診断書の記載について主治医に対して過度な要求をした場合,主治医がモンスター患者の疑いを抱く結果,医学上確実に説明できる症状しか書いてくれなくなると感じています。
(4) 中途半端な書き込みのある原本のコピーを提供すると,原本とコピーの不一致の原因となりますから,止めた方がいいです。
   そのため,①原本を直接,依頼した弁護士に送るか,それとも,②一切書き込みのない原本のコピーを送ることが望ましいです。
(5) 訴状には,原告の氏名及び住所を記載する必要があります(民事訴訟規則2条1項1号)。
   ただし,電話番号及びファクシミリ番号については,代理人弁護士のものを記載すれば足ります(民事訴訟規則53条4項)。
 
2 委任状
(1) 訴訟を提起する場合,所定の書式の委任状に署名押印します(民事訴訟規則15条前段参照)。
   また,念のため,委任状の欄外(具体的には,「委任状」の文字の上部余白部分)に捨印を押してもらうことがあります。
(2) 裁判所に提出する委任状については,個人であると,法人であるとを問わず,実印でなくて大丈夫です。
   ただし,金融機関なり法務局なりに提出する委任状の場合,実印の押印が求められます。
(3) 委任状の委任事項欄には通常,反訴の提起,訴えの取下げ,和解,控訴,上告といった特別委任事項(民事訴訟法55条2項参照)も記載されています。
   しかし,依頼した弁護士が,依頼者の同意なく,無断でこれらの行為をすることはないと思います(弁護士職務基本規程22条1項参照)。
(4) 特別委任事項のうち,復代理人の選任(民事訴訟法55条2項5号)は,依頼した弁護士が別の弁護士に期日への出頭をお願いするような場合に利用されることがあります。
   なお,復代理人の選任は,①本人の許諾を得たとき(例えば,委任状にその旨の記載があるとき),又は②やむを得ない事由があるときに限り,認められています(民法104条)。
 
3 相手方との交渉は原則として代理人弁護士が行うこと
(1) 弁護士に依頼した後に相手方から直接の連絡があった場合,原則として,相手方に対しては,代理人弁護士を通して連絡するように伝えた方が無難です。
   仮に相手方との間で直接,具体的な交渉をした場合,①交渉した年月日及び②交渉した内容について,メモ書きで結構ですから記録に残しておいた方がいいです。
(2) 弁護士名義の請求書なり,訴状なりが届いた場合,相手方によっては財産の隠匿等を図ることがあります。
   そのため,財産の隠匿等の危険がある場合,弁護士介入の事実が相手方に判明する前に,相手方の自宅等の様子を写真撮影しておいた方がいいです。
 
4 ICレコーダーによる録音
(1) 相手方との会話内容が裁判で決定的な証拠となる可能性がある場合,ICレコーダー等を使って会話を録音しておくことが望ましいです。
(2) 少なくとも,詐欺の被害を受けたと考えた者が,相手方の説明内容に不審を抱き,後日の証拠とするため,相手方との会話を録音することは,たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても,違法ではありません(最高裁平成12年7月12日決定。なお,先例として,最高裁昭和56年11月20日決定)。
   また,秘密録音の対象となった会話が私生活上の事実に関わるものではなく,かつ,秘密録音の目的が相手方との紛争の発生に備えて面談の内容を正確に記録することにあった場合,秘密録音それ自体により相手方に損害が発生していないのであれば,不法行為には当たらないと解されています(東京地裁平成17年3月23日判決)。
(3) 録音反訳業者に出す場合,USB対応のICレコーダーでないと,音声データをパソコンに取り込めない点で受け付けてもらえませんから,USB対応のICレコーダーで録音した方がいいです。
 
5 裁判所の事物管轄
(1) 以下の事件は,地方裁判所が事物管轄を有します(裁判所法24条)。
① 訴訟の目的の価額が140万円を超える事件(離婚訴訟等は除く。)
② 不動産に関する事件
③ 簡易裁判所の判決に対する控訴事件
(2) 訴訟の目的の価額が140万円を超えない事件については,簡易裁判所が事物管轄を有します(裁判所法33条1項)。
(3) 訴訟の目的の価額が140万円を超えない不動産に関する事件については,地方裁判所と簡易裁判所の両方が事物管轄を有します。
    ただし,本案について弁論をする前に被告が裁量移送の申立てをした場合,簡易裁判所は必ず,不動産に関する事件を地方裁判所に移送する必要があります(民事訴訟法19条2項)。
(4) 土地を目的とする訴訟の訴訟物の価額は,土地の固定資産評価額の2分の1が基準となります(平成6年3月28日付の最高裁判所民事局長通知)。
   また,所有権に基づく物の明渡請求訴訟における訴訟物の価額は,目的たる物の価格の2分の1が基準となります。
   そのため,例えば,固定資産評価額が560万円の土地について,所有権に基づく明渡請求訴訟を提起する場合,訴訟物の価額は,560万円×1/2(土地)×1/2(所有権に基づく物の明渡請求)=140万円となります。
   その結果,地方裁判所と簡易裁判所の両方が事物管轄を有します。
 
6 訴え提起の手数料及び予納郵券
(1) 訴え提起の手数料の例は以下のとおりです。なお,収入印紙は郵便局で販売しています。
① 訴額が100万円の場合,収入印紙は1万円
② 訴額が1000万円の場合,収入印紙は5万円
③ 訴額が3000万円の場合,収入印紙は11万円
④ 訴額が5000万円の場合,収入印紙は17万円
⑤ 訴額が1億円の場合,収入印紙は32万円
(2) 大阪地裁において訴えを提起する場合,訴状等の送達のための費用として,5000円分の予納郵券(=切手)を納付する必要があります(大阪地裁HPの「民事訴訟等手続に必要な郵便切手一覧表」参照)。
   ただし,予納郵券については,裁判が終了した時点で余った分が返却されます。

第2 訴状等の送達

1 送達の種類
(1) 訴状及び呼出状(以下「訴状等」といいます。)は,被告となる相手方に送達される必要があります(民事訴訟法138条1項,139条参照)。
   そして,訴状等は,原則として,裁判所書記官から職権で(民事訴訟法98条),被告の住所,居所,営業所又は事務所(以下「住所等」といいます。)に宛てて郵便により送達してもらう必要があります(民事訴訟法103条1項)。
(2)ア 郵便による送達(民事訴訟法99条2項)というのは,郵便法49条及び内国郵便約款131条ないし133条に基づき,日本郵便株式会社が裁判所関係の郵便物に限り取り扱っているものであり,「特別送達」ともいいます。
イ   日本郵便株式会社は,平成24年10月1日,郵便局株式会社が郵便事業株式会社を吸収合併するとともに,商号変更することで成立しました。
(3) 一人暮らしの相手方が平日,自宅を留守にしていることが明らかである場合,平日に自宅宛に特別送達をしても受取人がいませんから,相手方が郵便局に取りに来てくれない限り,訴状等の送達ができません。
   そのため,この場合,訴状等は,配達指定日を日曜日又は休日とする配達日指定郵便(内国郵便約款148条ないし150条)により送達してもらいます。
(4) 相手方の住所等が知れないとき,又は住所等に送達をするのに支障がある場合,訴状等は相手方の就業場所(=勤務先)に送達してもらいます(就業場所送達。民事訴訟法103条2項)。
   ただし,離婚訴訟の訴状なり,不倫相手に対する損害賠償請求訴訟の訴状なりについて就業場所送達を実施した場合,相手方のプライバシーに対する重大な侵害となりますから,このような訴状に関して就業場所送達は行わない方が無難です。
(5) 住所等に対する送達なり就業場所送達なりを実施したにもかかわらず,訴状等を送達できなかった場合,以下のいずれかの手段により送達してもらいます。
① 書留郵便等に付する送達(=付郵便送達,民事訴訟法107条)
② 公示送達(民事訴訟法110条)
(6) ①付郵便送達というのは,相手方が住所等で居留守を使って訴状を受領しない場合,書留郵便等に付して発送した時点で訴状等が送達されたとみなす送達方法です(民事訴訟法107条3項)。
   この場合,裁判所書記官が,相手方に対し,訴状等の送達とは別に,付郵便送達に付した旨を普通郵便により通知します(民事訴訟規則44条)。
   ②公示送達というのは,相手方の住所等が不明である場合,裁判所書記官が送達すべき訴状等を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示して行う送達方法です(民事訴訟法111条)。
   この場合,掲示を始めた日から2週間を経過した時点で訴状が送達されたとみなされます(民事訴訟法112条1項本文)。
(7) 有効に訴状の送達がされず,それがために被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合,当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はありませんから,民事訴訟法338条1項3号の再審事由があることとなります(最高裁平成4年9月10日判決)。
   そのため,有効な訴状の送達がない場合,仮に欠席裁判で勝訴判決をもらったとしても,被告とされた者が後日,再審の訴えを提起したとき,再審開始決定(民事訴訟法346条)を経て判決が取り消されることとなります(民事訴訟法348条3項)。
(8) 担当裁判所書記官が,受送達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合,受送達者の就業場所の存在が事後に判明したときであっても,その認定資料の収集につき裁量権の範囲を逸脱し,又はこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り,当該付郵便送達は適法です(最高裁平成10年9月10日判決)。
 
2 現地調査報告書の作成
(1) 就業場所送達すらできなかった場合,①相手方が住所等で居留守を使って訴状等を受領しない場合であるから「付郵便送達」にしてもらうべきなのか,それとも,②相手方が住所等にそもそもいない場合であるから「公示送達」にしてもらうべきなのかを調査する必要があります。
   そこで,住所変更の有無を確認するために相手方の住所地の住民票を取り寄せた上で,住所地の現地調査を実施し,現地調査報告書を裁判所書記官に提出する必要があります。
(2) 現地調査報告書には,相手方の住所地について以下のようなことを記載する必要があります。
① いつ,誰が,どこを調査したのか。
② 水道・電気・ガスのメーターのチェック
③ 洗濯物の有無
④ 表札,新聞,郵便物の状況
⑤ 管理人なり近隣住民なりからの聴き取り
⑥ 結論(原告代理人の所見)
例)「以上の諸事情により,被告が本件建物に居住していることが明らかであるので,付郵便にされたい。」
例)「以上の諸事情により,被告が本件建物に居住していないことが明らかであるので,公示送達をされたい。」
(3) 訴状等の他,判決書なり,強制執行関係の決定書(例えば,強制競売開始決定,債権差押命令,担保不動産競売開始決定)なりの送達に際し,相手方の住所等への送達ができなかった結果,現地調査報告書を作成する必要が生じます。
(4) 大阪弁護士協同組合HPの「第83回 訴状を無視する人たち」には,以下の記載があります。
   訴状が「受取人不在」で裁判所に戻ってくると、原告(訴えた側)の代理人は、訴状の送付先に被告が住んでいるのか否かを調査しなければなりません。
まずは、現地を訪問し、電気メーターを調べます。最近は、円盤の回る速度によって使用料がわかるメーターも減りましたので、2回ほど訪問して、デジタル表示の使用料を見ないといけなくなりました。裏に回って、洗濯物が干してあるかも確認します。そして、その結果、明らかに人が住んでいると判明して、裁判所に報告書を提出しても、「確かに、そこに人が住んでいることはわかりますが、被告が住んでいるかはわからないですよねえ。隣の部屋の人に、被告が住んでいるかを聞いてみて下さい」などと言われてしまいます。今どき、隣の人が誰なのか知っている人は少ないし、そんなこと聞いても怪しまれて答えてくれません。この作業は、結構大変です。

第3 訴訟提起後の留意点

1 総論
(1) 依頼した弁護士に相談することなく,独断で裁判所に書面を提出することは絶対に止めた方がいいです。
(2) 裁判所に提出する準備書面及び書証は,その全部を相手方当事者に直送その他の方法により送付する必要があります(準備書面につき民事訴訟法161条3項及び民事訴訟規則83条,書証につき民事訴訟規則137条参照)。
(3) 直送とは,当事者の相手方に対する直接の送付をいい,①送付すべき書類の写しの交付又は②その書類のFAXを利用しての送信によって行います(民事訴訟規則47条1項)ところ,準備書面及び証拠申出書の場合,直送が義務づけられています(民事訴訟規則83条1項・99条2項)。
   ただし,直送を困難とする事由その他相当とする事由があるときは,裁判所書記官に送付してもらうことができます(民事訴訟規則47条4項)。
(4) 準備書面等の直送を受けた場合,受領書面を相手方に直送し,裁判所に提出する必要があります(民事訴訟規則83条2項)。
   ただし,当事者が,受領した旨を相手方が記載した準備書面を裁判所に提出した場合,受領書面の提出は不要となります(民事訴訟規則83条3項)。
(5) 訴訟を提起した後であっても,原告は,請求の基礎に変更がなく,かつ,著しく訴訟手続を遅滞させるといった事情がないのであれば,口頭弁論の終結に至るまで,「請求」又は「請求の原因」を変更することができます(民事訴訟法143条1項)。
   そのため,請求内容を追加したい場合,速やかに依頼した弁護士に連絡した方がいいです。
(6) 被告が訴えの変更に対して応訴した場合,請求の基礎に変更がある場合であっても訴えの変更が認められます(最高裁昭和29年6月8日判決参照)。
(7) 「請求」を変更する場合(=「請求の趣旨」に変更が生じる場合),裁判所を通じて,訴えの変更申立書の副本を被告に「送達」してもらう必要があります(民事訴訟法143条3項,民事訴訟規則40条1項)。
(8) 訴訟代理人がいる場合,訴訟書類の送達は通常,訴訟代理人である弁護士に対してなされます(最高裁昭和25年6月23日判決参照)。
(9) 請求の趣旨の減縮は,訴えの一部取下げであって,民事訴訟法143条2項の「請求の変更」に当たりません(最高裁昭和27年12月25日判決)から,被告の同意が必要です。
(10) 裁判所は,当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは,取り調べることを要しない(民事訴訟法181条1項)とされていますから,提出した証拠が必ずすべて取り調べられるわけではないです。
   特に,文書提出命令の申立て及び証人尋問については,その必要性が厳しく吟味されています。
(11)ア 裁判官は3年に1回程度のペースで転勤していますから,毎年4月になると,裁判官の転勤に伴い,担当裁判官が変更になる場合があります。
   この場合,弁論の更新(民事訴訟法249条2項)がなされるほか,従前の裁判期日でいったん裁判所に提示した書証の原本を改めて提示することを求められる場合があります。
イ 詳細については,「裁判官人事」を参照して下さい。
 
2 主張及び証拠の提出時期等
(1) 主張及び証拠は,訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければなりません(民事訴訟法156条)。
   また,故意又は重大な過失により時機に後れて主張及び証拠を提出した場合,これにより訴訟の完結を遅延させることとなるときは,裁判所が却下してくることがあります(民事訴訟法157条1項・170条5項のほか,最高裁昭和30年4月5日判決参照)。
   そのため,裁判所に伝えて欲しい主張なり,提出して欲しい証拠なりがある場合,なるべく早く依頼した弁護士に提供して下さい。
(2) 証拠を提出する場合,文書の記載から明らかな場合を除き,文書の標目,作成者,立証趣旨等を明らかにした証拠説明書(民事訴訟規則137条1項)と一緒に提出する必要があります。
 
3 依頼者において準備書面に目を通す必要があること等
(1) 事実関係に争いがある事件の場合,相手方が提出してきた答弁書及び準備書面,並びに依頼した弁護士が作成する準備書面について,一通り目を通した方がいいです。
(2) 原告又は被告が主張した事実であり,それを相手方が認めた場合,裁判上の自白(民事訴訟法179条)が成立するため,以後,当該事実を争うことができなくなります。
   そのため,相手方の主張事実について,①「否認」(=認めない),②「不知」(=知らない),③「自白」(=認める)及び④「沈黙」のいずれを選択するかについては慎重に検討する必要があります。
(3) 相手方の主張事実を否認する場合,その理由を記載する必要があります(民事訴訟規則79条3項)から,何でもかんでも否認すればいいというものではありません。
 
4 被告が反訴を提起してくる場合があること
(1) 訴訟を提起した場合,被告が原告に対し,関連する事件について反訴を提起してくることがあります。
   反訴とは,係属中の本訴の手続内で関連する請求につき被告が原告に対して提起する訴えをいいます(民事訴訟法146条)。
   例えば,離婚訴訟を提起した場合,被告が反訴として,離婚及び離婚慰謝料を請求してくることがあります。
(2) 反訴の提起は本訴の提起に準じるのであって,収入印紙を貼付した反訴状に予納郵券を添えて裁判所に提出する必要があります(民事訴訟法146条2項・133条)。
(3) 第一審での反訴の提起は原告(=反訴被告)の同意を要しないものの,控訴審での反訴の提起は控訴人の同意を要します(民事訴訟法300条1項)から,反訴を提起したい場合,必ず第一審の段階でご連絡ください。
   ただし,離婚訴訟等の人事訴訟の場合,控訴審での反訴の提起であっても控訴人の同意を要しません(人事訴訟法18条)。
(4) 反訴の提起は特別委任事項である(民事訴訟法55条2項1号)のに対し,提起された反訴に対する訴訟行為は当然に訴訟代理権に含まれます(民事訴訟法55条1項)。
(5) 反訴は訴訟係属中の新訴の提起であり,その併合要件は同時に反訴提起の訴訟要件ですから,この要件を欠く反訴は不適法であり,終局判決をもって却下されます(最高裁昭和41年11月10日判決)。

第4 裁判期日の留意点

1 期日前の留意点
(1) 裁判所は,土日祝日及び年末年始にお休みをもらっていますから,裁判期日が入りません(裁判所の休日に関する法律1条1項)。
   裁判所は,やむを得ない場合に限り,日曜日その他の一般の休日に期日を指定できるにすぎません(民事訴訟法93条2項)。
(2) 訴えの提起があったときは,裁判長は,口頭弁論の期日を指定し,当事者を呼び出します(民事訴訟法139条)。
   そして,第1回の口頭弁論期日(裁判期日の一種です。)は,特別の事由がある場合を除き,訴えを提起した日から30日以内の日が指定されることになっています(民事訴訟規則60条2項)ものの,1月以上後の日が指定されることも珍しくはありません。
(3) 例えば,4月1日の裁判期日の1週間前に相手方から反論の準備書面が提出された場合,それに対する再反論の準備書面は,4月1日の裁判期日の次の期日までに提出すれば足りるのであって,4月1日の裁判期日に再反論の準備書面を提出する必要はありません。
   なお,期日と期日の間は通常,1ヶ月ぐらい空きます。
(4) 準備書面は通常,相手方が準備をするのに必要な期間を確保するため(民事訴訟規則79条1項参照),裁判期日の1週間程度前までに提出する必要があります。
(5) 被告に代理人弁護士が付いた場合,答弁書には,代理人弁護士の電話番号及びファクシミリ番号が記載されます(民事訴訟規則80条3項・53条4項)。
(6) 被告に複数の代理人弁護士が付く場合がありますものの,代理人弁護士の人数が増えたことそれ自体が,裁判の結果に影響を与えることは絶対にありません。
   訴訟代理人が数人ある場合であっても,各自が常に当事者を代理できます(個別代理の原則。民事訴訟法56条)し,各自が送達の受領権限を有します(民事訴訟法102条2項)から,通常は担当者1人が法廷に出席するだけです。
 
2 期日当日の留意点
(1) 裁判期日には,原則として代理人弁護士だけが出席すれば足りますものの,依頼者が裁判期日に出席することは当然に認められることです。
(2) 裁判期日では,代理人として弁護士又は司法書士を依頼していない場合,運転免許証等の本人確認書類の提示を求められる他,被告になっているときは,「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」(呼出状につき民事訴訟法94条1項参照)の提示を求められることがあります。
   しかし,代理人として弁護士又は司法書士を依頼している場合,このような書類の提示は通常,求められません。
(3) 第1回の口頭弁論期日は相手方である被告の予定を聞かないで決められますから,被告は,答弁書(民事訴訟規則80条)さえ提出しておけば,第1回の口頭弁論期日に出席する必要はありません(民事訴訟法158条参照)。
   ただし,第1回の口頭弁論期日において,被告訴訟代理人の事務員が弁護士手帳を持参して傍聴席に出席し,次回期日の調整を行うことはあります。
(4) 答弁書には,「請求の趣旨に対する答弁」として以下の定型文言が記載されます。
1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする
との判決を求める。
(5) 答弁書については,例えば,第1回の口頭弁論期日の直前に被告に訴訟代理人が付いた場合のように,期日までの準備期間が短く,詳細な内容の答弁書の提出を求めることが困難である場合があります。
   そのため,やむを得ない事由により所定の記載や必要な書証の写しの添付をすることができない場合,答弁書の提出後,速やかに記載を補充するための準備書面及び必要な書証の写しを提出すること(民事訴訟規則80条1項ただし書及び同条2項ただし書)を前提に,請求原因に対する認否すら記載しない,ごく簡単な答弁書が提出されることがあります。
(6) 依頼者の言い分は訴状,答弁書,準備書面等で一通り主張していますから,証人尋問を実施する裁判期日でない限り,事件の内容に関する詳しいやりとりを裁判所の法廷で行うことは通常,ありません。
   そのため,裁判期日では通常,以下のことをするだけですから,5分以内に終了します。
① 「訴状陳述」,「答弁書陳述」,「準備書面陳述」といった発言を行う(民事訴訟法161条,170条1項参照)。
② 証拠の原本の取調べを行う(民事訴訟法170条2項参照)。
③ 次回期日を決める(民事訴訟法94条2項本文「当該事件について出頭した者に対する期日の告知」参照)。
④ 場合によっては,相手方の準備書面等の内容について質問する(民事訴訟法149条3項参照)。
(7) 裁判所が法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際し,その面前その他直接に知ることができる場所で,秩序を維持するため裁判所が命じた事項を行わず若しくは執った措置に従わず,又は暴言,暴行,けん騒その他不穏当な言動で裁判所の職務の執行を妨害し若しくは裁判の威信を著しく害した場合,法廷等の秩序維持に関する法律に基づき,その場で直ちに裁判所職員又は警察官に拘束された上で,20日以内の期間,監置場に留置されることがあります(裁判所法71条,法廷等の秩序維持に関する法律2条1項及び3条2項,並びに法廷等の秩序維持に関する規則2条及び5条)。
   なお,このような取扱いは,憲法31条,32条,33条,34条,37条3項及び82条に違反しません(最高裁昭和60年11月12日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和33年10月15日決定参照)。
 
3 裁判の傍聴
(1) 口頭弁論期日の場合
ア 裁判期日のうち,法廷で行われる口頭弁論期日については,一般に公開されています(憲法82条1項)。
   そのため,何人かの傍聴人が傍聴席に座っていることがありますし,ごく稀に,大学生なり法科大学院生なりが集団で傍聴席に座っていることがあります。
イ 裁判の公開を定める憲法82条1項は,傍聴人が法廷においてメモを取ることを権利として保障しているわけではありませんが,表現の自由を定める憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきものです(最高裁大法廷平成元年3月8日判決)。
   そのため,実務上,傍聴人は傍聴席で自由にメモを取っています。
ウ 裁判の傍聴に関する詳細は,裁判所傍聴規則(昭和27年9月1日最高裁判所規則第21号)で定められています。
   また,外部HPの「誰でもできる『傍聴』のしおり」が参考になります。
(2) 弁論準備手続期日の場合
ア 裁判所は,争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは,当事者の意見を聴いた上で,事件を弁論準備手続に付することができます(民事訴訟法168条)。
弁論準備手続期日は裁判期日でありますものの,法廷ではなく,ラウンドテーブル法廷で行われ,裁判所が相当と認める者の傍聴だけが許されています(民事訴訟法169条2項本文)。
   ただし,当事者が申し出た関係者については,「手続を行うのに支障を生ずるおそれ」がない限り,傍聴できます(民事訴訟法169条2項ただし書)。
イ 「手続を行うのに支障を生ずるおそれ」の例としては,①その者が傍聴していたのでは相手方当事者等が争点等の整理のための協議を率直かつ十分に行うことができないと認められる場合,及び②物理的な都合で傍聴席が足りない場合があります。
ウ ラウンドテーブル法廷というのは,丸いテーブルが置かれた小さい会議室みたいなイメージの部屋です。
エ 当事者のため事務を処理し,又は補助する者(例えば,会社の担当者)は,裁判所の許可があれば,弁論準備手続期日において発言することができます(民事訴訟法170条5項・151条1項2号参照)。
オ 弁論準備手続期日ではなく,公開の法廷で行われる口頭弁論期日を希望する場合,その旨を裁判所に希望することができます(民事訴訟法172条本文)。
   また,相手方当事者も口頭弁論期日を希望する場合,必ず口頭弁論期日で裁判が進行することとなります(民事訴訟法172条ただし書)。
カ 弁論準備手続の終結後に攻撃防御方法を提出した当事者は,相手方の求めがあるときは,相手方に対し,弁論準備手続の終結前にこれを提出できなかった理由を説明する必要があります(民事訴訟法174条・167条)。
   ①この場合における当事者の説明は,期日において口頭でする場合を除き,書面でする必要があります(民事訴訟規則90条・87条1項)し,②期日において口頭で説明をした場合,相手方の求めがあれば,当該説明の内容を記載した書面を交付する必要があります(民事訴訟規則90条・87条2項)。
口頭弁論調書・準備的口頭弁論調書(合議用)
口頭弁論調書・準備的口頭弁論調書(単独用)
弁論準備手続調書(合議用)
弁論準備手続調書(単独用)

第5 第一審判決を取得するまでの期間

1 被告とされた者が第1回口頭弁論期日に出席せず,答弁書も提出しなかった結果,欠席判決が言い渡される場合(民事訴訟法254条1項参照)を除き,訴訟を提起してから第一審判決を取得するまでの期間は通常,半年から1年ぐらいです。

2 第一審の訴訟手続については2年以内のできるだけ短い期間内に終局させるものとされています(裁判の迅速化に関する法律2条1項)。

3 奇数年の7月に公表されている,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書が裁判所HPの「公表資料」に掲載されています。

第6 訴訟上の和解に関する留意点

1 総論
(1) 訴訟手続に入った場合であっても,実際には訴訟上の和解で解決することが多いものです(民事訴訟法89条参照)。
   訴訟上の和解の最大のメリットは,紛争を早期かつ終局的に解決できるという点にあります。
(2) 訴訟上の和解はお互いにある程度譲歩して成立させるものです(民法695条参照)から,こちらの主張が100%そのまま通ることは絶対にありません。
(3) 一度和解手続に入った場合であっても,裁判期日で正式に訴訟上の和解を成立させない限り,いったん打診した和解条項案について法律的に拘束されることはありません。
   ただし,裁判所が提案した和解案を相手方が全面的に受け入れたにもかかわらず,こちらが時機に後れた上で合理的理由なく拒絶した場合,裁判所の心証を害する結果,判決内容に悪影響を及ぼすおそれがあります。
   そのため,依頼した弁護士から報告があった裁判所の和解案を受諾する余地が全くない場合,裁判所の心証をなるべく害しない形で和解手続を打ち切ってもらう必要があります。
(4) 和解当日に和解条項の実質的内容について調整する場合がありますから,和解条項の細かい文言にこだわりを持つのであれば,和解期日に出席した方がいいです。
(5) 訴訟上の和解を進める場合,裁判所の方から当事者本人又はその法定代理人の出頭を命じてくることがあります(民事訴訟規則32条1項)。
(6) 訴訟代理人は弁済の受領権限を有します(民事訴訟法55条1項)し,この点に関する訴訟代理権は制限することができません(民事訴訟法55条3項本文)。
   そのため,和解金の振込口座は通常,代理人弁護士の預り金口座になります。
(7) 訴訟上の和解を成立させる場合,裁判所が和解条項を読み上げます。
   ただし,当事者又は代理人弁護士が和解期日において何らかの書類にはんこを押すことはありませんから,和解期日に出席する場合,はんこを持参する必要はありません。
(8) 訴訟の係属中に訴訟代理人たる弁護士も関与して成立した訴訟上の和解においては,その文言自体相互に矛盾し,又は文言自体によってその意味を了解しがたいなど,和解条項それ自体に瑕疵を含むような特別の事情のないかぎり,和解調書に記載された文言と異なる意味に和解の趣旨を解することはできません(最高裁昭和44年7月10日判決)。
   つまり,訴訟上の和解の内容は,和解調書に書かれた和解条項がすべてということです。
 
2 訴訟上の和解における,定型的な文言等
   訴訟上の和解を成立させる場合,以下の文言が定型的に入ります。
① 原告は,その余の請求を放棄する。
→ 放棄条項といわれるものであり,和解条項に記載した内容以外の請求はしないということです。
② 原告と被告の間には,本和解条項に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。
→ 清算条項といわれるものであり,和解条項に書いたこと以外,一切,関係がないということです。
③ 訴訟費用は各自の負担とする。
→ 訴訟費用の負担条項といわれるものであり,既に支出した訴訟費用はお互いの負担とし,相手方に対しては請求しないということであって,新たな出費が生じるわけではありません。
民事訴訟法68条と同趣旨の文言ですから,なくても法律上の問題はないものの,実務上は必ず入れます。

3 訴訟上の和解の内容を秘密にしたい場合の方法等
(1) 訴訟上の和解の内容を記載した和解調書は民事訴訟記録の一部ですから,無関係の第三者の閲覧対象となります(民事訴訟法91条)。
   そのため,訴訟上の和解の内容を秘密にしたい場合,和解条項に守秘義務条項を入れるほか,秘密記載部分の閲覧等制限決定(民事訴訟法92条1項1号参照)を出してもらう必要があります。
(2) 秘密記載部分の閲覧等制限決定は,同決定の取消しの申立て(民事訴訟法92条3項)により取り消されることがあります。
   この場合,民事訴訟法92条1項1号の事由(当事者の私生活についての重大な秘密が記載されており,かつ,第三者の閲覧等によりその当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。)が文言通り解釈されますから,和解調書に関する閲覧等制限決定が維持される可能性の方が低いと思います。
   そのため,和解調書の内容を絶対に無関係の第三者に閲覧されたくないのであれば,民事調停法20条1項に基づき調停手続に付してもらった上で,守秘義務条項を入れた調停を成立させた方がいいです。民事調停の記録は,当事者又は利害関係を疎明した第三者でない限り,閲覧等をすることができません(民事調停法12条の6第1項)。

第7 判決の言渡し,訴訟費用及び予納郵券の返還

1 判決の言渡し
(1) 民事訴訟の場合,裁判所が判決言渡し期日を指定するに際して,代理人弁護士の予定は考慮しません。
   そのため,判決言渡し期日に代理人弁護士が出頭しないことは多いものの,そのことによる不利益は一切ありません(民事訴訟法251条2項参照)し,判決の主文は電話で裁判所に尋ねることができますから,不都合もありません。
(2) 判決は,判決書の原本に基づく言渡し(民事訴訟法252条)によってその効力を生じます(民事訴訟法250条)。
   ただし,被告に対して強制執行をする場合,あらかじめ,又は同時に,判決書(民事訴訟法253条)が被告に送達されている必要があります(民事執行法29条)。
 
2 訴訟費用
(1) 裁判所が判決を下す場合,必ず訴訟費用の全部について,その負担の裁判をする必要があります(民事訴訟法67条1項本文)。
   実務上は,判決の主文で,「訴訟費用は被告の負担とする。」という風に記載されます。
(2) 全部勝訴判決を取得した場合,訴訟費用は相手方である被告の負担となります(民事訴訟法61条)。
   ただし,ここでいう訴訟費用というのは,収入印紙代,切手代,当事者・訴訟代理人・証人の旅費及び日当(日当につき期日1回当たり3,950円)を意味するのであって,代理人弁護士の弁護士費用は含まれません(民事訴訟費用等に関する法律2条参照)。
   また,債権者は,金銭債務の不履行による損害賠償として,債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできません(最高裁昭和48年10月11日判決)。
   そのため,交通事故等の不法行為に基づく損害賠償請求訴訟でない限り(最高裁昭和58年9月6日判決等参照),依頼した弁護士の弁護士費用を敗訴した相手方に請求することはできません。
(3) 全部棄却判決となった場合,訴訟費用は原告の負担となります(民事訴訟法61条)。
   ただし,訴訟費用を実際に請求されることはあまりありません。
 
3 予納郵券の返還
(1) 訴訟手続が終了した場合,訴訟提起に際して納めた切手(=予納郵券)のうち,裁判で使われなかったものが返還されます。
   裁判所から返還される切手は適宜の封筒の中に入っており,1,000円分程度であることが多いです。
(2) 切手を金券ショップに持ち込んだ場合,額面の60%前後で買い取ってくれます。
   ちなみに,金券ショップは古物営業法に基づく「古物商」に該当しますから,①都道府県公安委員会の許可を受けている必要があります(古物営業法3条)し,②古物を買い受ける場合,相手方である売主の本人確認義務を負っています(古物営業法15条1項)し,③当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは,直ちに警察官にその旨を申告する必要があります(古物営業法15条3項)。

第8 上訴の取扱い

1 総論
(1) 上訴には,控訴及び上告があります。
(2) 控訴は,第一審判決に対する上訴であるのに対し,上告は,控訴審判決に対する上訴です。
   例えば,地方裁判所が第一審である場合,①地方裁判所の判決に対する,高等裁判所への上訴が控訴であり,②高等裁判所の判決に対する,最高裁判所への上訴が上告となります。
(3) 以下に述べるとおり,控訴については判決の変更を期待できる場合がそれなりにあるのに対し,上告については判決の変更を期待できる場合はほとんどありません。
(4) 統計数字については,「終局区分別既済事件数の推移表」を参照して下さい。
 
2 控訴
(1) 控訴状を提出する際,控訴理由を記載する必要はないのであって,控訴の提起後50日以内に控訴理由を記載した控訴理由書を提出すれば足ります(民事訴訟規則182条)。
(2) 民事事件の控訴の場合,控訴理由に制限はありません。
   そのため,第一審判決の不当な点を控訴状なり控訴理由書なりで主張すれば,控訴審判決において主張に対する判断を必ずしてもらえます。
   もちろん,主張に対する判断が納得の行くものであるかどうかは別の問題です。
(3) 訴状等の陳述の擬制を定めた民事訴訟法158条は控訴審にも適用があります(最高裁昭和30年10月31日判決参照)。
   そのため,控訴審において当事者が第一審における口頭弁論の結果を陳述すべき場合において(民事訴訟法296条2項),当事者の一方が口頭弁論期日に欠席したとき,出頭した方の当事者が,双方に係る第一審口頭弁論の結果を陳述することとなります(最高裁昭和33年7月22日判決参照。なお,先例として,最高裁昭和31年4月13日判決参照)。
(4)   控訴の申立てがある以上,控訴裁判所はその当否について判断して応答すべきものであって,控訴棄却の申立はなくても,控訴の理由がないと認められるときは,その旨の裁判をすることができます(最高裁昭和36年2月24日判決参照)。
   そのため,被控訴人の場合,控訴審の第1回期日に当然,出席することができますものの,日程が合わないときは,出席しなくても問題はありません。
(5) 控訴審の場合,8割近くが第1回期日に結審しますし,95%近くが第2回期日までに結審します。
(6) 控訴審で第2回期日が指定された場合,地裁判決が取り消される可能性がかなりあるということです。
   ただし,控訴審で第1回期日に結審した場合であっても,地裁判決が取り消されることがあります。
(7) 年によって違いがあるものの,高等裁判所が控訴審として判決をする場合,地裁判決を取り消す割合は大体,4分の1ぐらいです。
 
3 上告
(1) 上告の場合,①憲法違反(民事訴訟法312条1項),②訴訟手続の違反(民事訴訟法312条2項1号ないし5号)及び③理由の食い違い(民事訴訟法312条2項6号)だけが上告理由となっています。
(2) 最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件の場合,上告受理の申立て(民事訴訟法318条1項)をすることができます。
   しかし,最高裁判所が上告審として受理するかどうかはケースバイケースであって,最高裁判所が法令の解釈について判断したいと思えば受理するものの,そうでなければ受理してくれません。
(3) 控訴審判決の事実認定が不当であることを理由に上告又は上告受理の申立てをすることはできません。
   ちなみに,最高裁判所は,「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認」がある場合,刑事裁判であれば,刑訴法411条3号に基づく職権発動として,高裁判決を破棄することがあります。
   しかし,民事裁判の場合,極めて稀に,①理由不備,②審理不尽又は③経験則違反の違法を理由に控訴審判決を破棄することがあるにすぎないのであって,例えば,平成26年中に最高裁が事実誤認を理由に控訴審判決を破棄したのは1件だけです。
(4) 上告状又は上告受理申立書を提出する際,上告理由又は上告受理申立理由を記載する必要はないのであって,上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に上告理由書又は上告受理申立理由書を提出すれば足ります(民事訴訟規則194条)。
   ただし,この期間制限は厳格なものであって,この期間内に上告理由書又は上告受理申立理由書を提出しなかった場合,直ちに決定で上告を却下されます(民事訴訟法316条1項2号・318条5項)。
(5)ア 上告人・申立人は,被上告人・相手方の同意を得ることなく,不服申立ての範囲を拡張し,又は減縮することができます(最高裁昭和44年7月10日判決参照)。
   もっとも,拡張の場合,理由書提出期間内に拡張部分についての理由を主張している必要がありますから,この主張が欠けている場合,拡張部分に係る上告・上告受理申立ては不適法となります。
イ   拡張が1個の請求の量的な範囲の拡張にとどまる場合,当初の不服申立ての範囲について適法な理由の主張があれば,拡張部分について不適法となることはないと解されています(平成26年6月発行の判例タイムズ1399号64頁)から,例えば,不服申立ての範囲は10万円であるとして2000円の印紙を貼って上告状又は上告受理申立書を提出し,その後に理由書を提出したうえで,最高裁判所の弁論期日の連絡があった後に不服申立ての範囲を拡張して印紙を追納すれば,印紙代の節約になります。 
   ただし,この方法は,最高裁判所に上告人・申立人のやる気を疑わせるものである結果,最高裁判所の心証を悪影響を及ぼす可能性はあります。
(6) 年によって違いがあるものの,最高裁判所が上告に基づいて控訴審判決を破棄するのは1%未満であり,上告受理申立てに基づいて控訴審判決を破棄するのは約2%です。
   そして,最高裁判所は,上告理由又は上告受理申立理由がないと認める場合,期日を開かないで決定又は判決により上告を棄却します(民事訴訟法319条参照)から,当事者が最高裁判所の法廷に出席する機会はほぼありません。

第9 判決の確定時期

1 言い渡された判決に対し,原告と被告のいずれもが控訴しなかった場合,控訴権者(=敗訴した当事者。一部勝訴判決の場合,当事者双方)が判決書又は調書判決の送達を受けた日から2週間を経過した時点で判決は確定します(民事訴訟法116条参照)。

2(1) ①敗訴した当事者が高等裁判所に控訴した場合,判決の確定は控訴の日から3ヶ月以上後になりますし,②敗訴した当事者が最高裁判所に上告した場合,判決の確定は上告の日から4ヶ月以上後になります。
(2)   控訴状の副本は,控訴の日から1ヶ月後ぐらいに,高等裁判所から相手方当事者である被控訴人に送達されます。

第10 判決の場合,債権を回収できるとは限らないこと

1 全部認容判決(=全面的な勝訴判決)が下された場合であっても,相手方が任意に支払ってこない場合があります。
  この場合,預貯金債権なり,給料なりに対して債権執行すること等により債権回収を図ることとなります。
   しかし,相手方の預貯金債権等も勤務先等も不明である場合,全く債権の回収を図ることができません。

2 法律上認められる手段を利用して,相手方の財産を調査したとしても,相手方が破産手続又は民事再生手続に移行しない限り,相手方の財産の全体像を調査することは難しいです。
  そのため,相手方が支払不能状態にある場合,相手方が速やかに破産手続又は民事再生手続に入って欲しいと考えている弁護士もいます。

3 勝訴判決を出してくれた裁判所が職権で相手方の財産を調査してくれることは絶対にないです。

4(1) 敗訴した相手方が破産手続開始の申立てを予定している旨の通知を送ってきた場合,強制執行をしても後日,破産管財人が付いたときに否認権(破産法160条以下参照)を行使されて強制執行による回収が事後的に無効になることがあります。
  そのため,この場合は通常,新たな強制執行には着手しても意味がありません。
(2) 詳細については,「否認対象行為」を参照して下さい。

5 親戚等が連帯保証人になっていない限り,法律上の手段として,①債務者に対して親戚等から借りて返済しろと要求することはできませんし,②親戚等に対して立替払いを要求することもできません(「貸金業法等に基づく債務者保護」参照)。

第11 一定の取立行為の自粛

1 貸金業者であれば許されないような取立行為(貸金業法21条参照)は通常,依頼した弁護士もしないと思います。

2 貸金業者等は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって,人を威迫し,又は以下に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはなりません(貸金業法21条1項,金融庁の貸金業者向けの総合的な監督指針Ⅱ-2-19「取立行為規制」)。
① 正当な理由がないのに,午後9時から午前8時までの時間帯に,債務者等に電話をかけ,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の居宅を訪問すること。
→ 「正当な理由」の例としては,(a)債務者等の自発的な承諾がある場合,及び(b)債務者等と連絡をとるための合理的方法が他にない場合があります。
② 債務者等が弁済し,又は連絡し,若しくは連絡を受ける時期を申し出た場合において,その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに,午後9時から午前8時までの時間帯に,債務者等に電話をかけ,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の居宅を訪問すること。
→ 「その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由」の例としては,以下のものがあります。
(a) 債務者等からの弁済や連絡についての具体的な期日の申し出がない場合
(b) 直近において債務者等から弁済や連絡に関する申し出が履行されていない場合
(c) 通常の返済約定を著しく逸脱した申出がなされた場合
(d) 申出に係る返済猶予期間中に債務者等が申出内容に反して他社への弁済行為等を行った場合
(e) 申出に係る返済猶予期間中に債務者等が支払停止,所在不明等となり、債務者等から弁済を受けることが困難であることが確実となった場合
③ 正当な理由がないのに,債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。
→ 「正当な理由」の例としては,(a)債務者等の自発的な承諾がある場合,(b)債務者等と連絡をとるための合理的方法が他にない場合,及び(c)債務者等の連絡先が不明な場合に,債務者等の連絡先を確認することを目的として債務者等以外の者に電話連絡をする場合があります。
④ 債務者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において,債務者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと。
⑤ はり紙,立看板その他何らの方法をもってするを問わず,債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。
→ これは,債務者等に心理的圧迫を加えることにより弁済を強要することを禁止する趣旨であり,債務者等から家族に知られないように要請を受けている場合以外においては,債務者等の自宅に電話をかけ家族がこれを受けた場合に貸金業者であることを名乗り,郵送物の送付に当たり差出人として貸金業者であることを示したとしても,直ちに該当するものではありません。
⑥ 債務者等に対し,債務者等以外の者からの金銭の借入れその他これに類する方法により貸付けの契約に基づく債務の弁済資金を調達することを要求すること。
→ 「その他これに類する方法」には,クレジットカードの使用により弁済することを要求すること等が該当します。
⑦  債務者等以外の者に対し,債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること。
⑧  債務者等以外の者が債務者等の居所又は連絡先を知らせることその他の債権の取立てに協力することを拒否している場合において,更に債権の取立てに協力することを要求すること。
⑨  債務者等が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士等に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり,弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があった場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
→ 弁護士が代理人になった場合,債務者等本人と直接の連絡を取ることは原則として許されないということです。
   なお,「正当な理由」の例としては,(a)弁護士等からの承諾がある場合,及び(b)弁護士等又は債務者等から弁護士等に対する委任が終了した旨の通知があった場合があります。
⑩  債務者等に対し,前述したいずれかに掲げる言動をすることを告げること。

3 ①反復継続して,電話をかけ,電報を送達し,電子メール若しくはファクシミリ装置等を用いて送信し又は債務者,保証人等の居宅を訪問すること,及び②保険金による債務の弁済を強要又は示唆することは,「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当するおそれが大きいです(貸金業者向けの総合的な監督指針Ⅱ-2-19「取立行為規制」)。

第12 敗訴した相手方が破産手続等に移行した場合の取扱い

1 敗訴した相手方が破産手続に移行した場合の取扱い
(1) 敗訴した相手方が破産手続に移行した場合,破産手続を通じた配当を受領できるに過ぎず(破産法100条1項参照),個別に強制執行に着手することはできなくなります(破産法42条1項,249条1項参照)し,相手方が免責許可決定を取得した場合,全く回収できなくなります(破産法253条1項本文参照)。
   そのため,破産管財人から配当表に基づく配当を受領できる場合があるに過ぎません。
(2) 破産者が破産申立てを取り下げることなく,裁判所で免責の判断を求めた場合,大阪地裁本庁では,99%以上の確率で免責許可決定が出ています。

2 敗訴した相手方が民事再生又は会社更生の手続に移行した場合の取扱い
敗訴した相手方が民事再生又は会社更生の手続に移行した場合,民事再生又は会社更生の手続の中での弁済を受領できるに過ぎず(民事再生法85条1項,会社更生法47条1項参照),個別に強制執行に着手することはできなくなります(民事再生法39条1項,会社更生法50条1項)。
   そのため,①民事再生の場合,再生債務者(原則です。)又は管財人(管理命令が発令された場合です。)から再生計画に基づく配当を受領できるに過ぎませんし,②会社更生の場合,管財人から更生計画に基づく配当を受領できるに過ぎません。

3 取扱いの詳細
   「破産手続開始決定と訴訟手続等との関係」「破産手続開始決定と強制執行手続等との関係」及び「再生手続開始決定と訴訟手続及び強制執行手続との関係」を参照して下さい。 

1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
 
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。