弁護士依頼時の一般的留意点
第0 目次
第2 訴状等の送達
第3 訴訟提起後の留意点
第4 裁判期日の留意点
第5 第一審判決を取得するまでの期間
第6 訴訟上の和解に関する留意点
第7 判決言渡し,訴訟費用及び予納郵券の返還
第8 上訴の取扱い
第9 判決の確定時期
第10 判決の場合,債権を回収できるとは限らないこと
第11 一定の取立行為の自粛
第12 敗訴した相手方が破産手続等に移行した場合の取扱い
*1 裁判所HPの「公表資料」に,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(奇数年7月上旬頃に発表)等の資料が掲載されています。
*2 平成29年7月21日,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第7回)が裁判所HPに掲載されました。
*3 裁判所HPの「裁判手続の案内」に,裁判手続に関する公式の説明が載っています。
*4 民事訴訟マニュアルHPに民事訴訟の書式が載っています。
*5 弁護士仲江武史HPに「訴訟に際して収集する主要な証拠および証拠収集手段」が載っています。
*6 弁護士業務と法律ネタ帳(弁護士大西洋一)ブログに「受任に慎重になるべき場合(弁護士向け)」が載っています。
*7 河原崎法律事務所HPに「弁護士にとって危険な依頼者/対処が難しい依頼者(依頼人)」が載っています。
*8 弁護士職務基本規程40条は,「弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由なく、これを妨げてはならない。」と定めていますから,依頼者は,現在頼んでいる弁護士から他の弁護士に乗り換えることはできます。
ただし,現在頼んでいる弁護士との間での,弁護士費用の清算の問題は残ります。
*9 日弁連弁護士倫理委員会が作成した解説「弁護士職務基本規程」第3版(2017年12月発行)は,日弁連審査部審査第二課で販売されています(日弁連HPの「解説「弁護士職務基本規程」第3版」参照)。
*10 東京地方裁判所民事部プラクティス委員会作成の書式集を掲載しています。
*11 東弁リブラ2009年12月号に,「民事訴訟手続と法廷技術」が載っています。
*12 東弁リブラ2019年2月号に,「裁判所を味方につける戦い方~2018年夏季合同研究全体討議第2部を基にして~」が載っています。
*13 以下の事務連絡に基づき,原告の現実の住所を訴状の当事者欄に記載せずに,例えば,「◯◯法律事務所気付」と記載できることがあります(河原崎弘弁護士HPの「訴状に現住所を書かないことができますか/弁護士の法律相談」参照)。
① 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付の最高裁判所民事局第二課長等の事務連絡)
② 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の最高裁判所家庭局第二課長等の事務連絡)
第1 訴訟提起前の留意点
(2) 裁判所に提出する委任状については,個人であると,法人であるとを問わず,実印でなくて大丈夫です。
仮に相手方との間で直接,具体的な交渉をした場合,①交渉した年月日及び②交渉した内容について,メモ書きで結構ですから記録に残しておいた方がいいです。
第2 訴状等の送達
(4) 大阪弁護士協同組合HPの「第83回 訴状を無視する人たち」には,以下の記載があります。
訴状が「受取人不在」で裁判所に戻ってくると、原告(訴えた側)の代理人は、訴状の送付先に被告が住んでいるのか否かを調査しなければなりません。
第3 訴訟提起後の留意点
(8) 訴訟代理人がいる場合,訴訟書類の送達は通常,訴訟代理人である弁護士に対してなされます(最高裁昭和25年6月23日判決参照)。
(10) 裁判所は,当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは,取り調べることを要しない(民事訴訟法181条1項)とされていますから,提出した証拠が必ずすべて取り調べられるわけではないです。
イ 詳細については,「裁判官人事」を参照して下さい。
第4 裁判期日の留意点
第5 第一審判決を取得するまでの期間
2 第一審の訴訟手続については2年以内のできるだけ短い期間内に終局させるものとされています(裁判の迅速化に関する法律2条1項)。
3 奇数年の7月に公表されている,裁判の迅速化に係る検証に関する報告書が裁判所HPの「公表資料」に掲載されています。
第6 訴訟上の和解に関する留意点
3 訴訟上の和解の内容を秘密にしたい場合の方法等
(1) 訴訟上の和解の内容を記載した和解調書は民事訴訟記録の一部ですから,無関係の第三者の閲覧対象となります(民事訴訟法91条)。
そのため,訴訟上の和解の内容を秘密にしたい場合,和解条項に守秘義務条項を入れるほか,秘密記載部分の閲覧等制限決定(民事訴訟法92条1項1号参照)を出してもらう必要があります。
(2) 秘密記載部分の閲覧等制限決定は,同決定の取消しの申立て(民事訴訟法92条3項)により取り消されることがあります。
この場合,民事訴訟法92条1項1号の事由(当事者の私生活についての重大な秘密が記載されており,かつ,第三者の閲覧等によりその当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。)が文言通り解釈されますから,和解調書に関する閲覧等制限決定が維持される可能性の方が低いと思います。
そのため,和解調書の内容を絶対に無関係の第三者に閲覧されたくないのであれば,民事調停法20条1項に基づき調停手続に付してもらった上で,守秘義務条項を入れた調停を成立させた方がいいです。民事調停の記録は,当事者又は利害関係を疎明した第三者でない限り,閲覧等をすることができません(民事調停法12条の6第1項)。
第7 判決の言渡し,訴訟費用及び予納郵券の返還
第8 上訴の取扱い
(4) 統計数字については,「終局区分別既済事件数の推移表」を参照して下さい。
イ 控訴審口頭弁論において,原審口頭弁論の結果を陳述するに際し,「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論したときは,第一審の口頭弁論で主張した事項であって,第一審判決の事実摘示に記載されていない事実は,控訴審口頭弁論では陳述されなかったことになります(最高裁昭和41年11月10日判決)。
もっとも,拡張の場合,理由書提出期間内に拡張部分についての理由を主張している必要がありますから,この主張が欠けている場合,拡張部分に係る上告・上告受理申立ては不適法となります。
イ 拡張が1個の請求の量的な範囲の拡張にとどまる場合,当初の不服申立ての範囲について適法な理由の主張があれば,拡張部分について不適法となることはないと解されています(平成26年6月発行の判例タイムズ1399号64頁)から,例えば,不服申立ての範囲は10万円であるとして2000円の印紙を貼って上告状又は上告受理申立書を提出し,その後に理由書を提出したうえで,最高裁判所の弁論期日の連絡があった後に不服申立ての範囲を拡張して印紙を追納すれば,印紙代の節約になります。
ただし,この方法は,最高裁判所に上告人・申立人のやる気を疑わせるものである結果,最高裁判所の心証を悪影響を及ぼす可能性はあります。
(6) 年によって違いがあるものの,最高裁判所が上告に基づいて控訴審判決を破棄するのは1%未満であり,上告受理申立てに基づいて控訴審判決を破棄するのは約2%です。
第9 判決の確定時期
2(1) ①敗訴した当事者が高等裁判所に控訴した場合,判決の確定は控訴の日から3ヶ月以上後になりますし,②敗訴した当事者が最高裁判所に上告した場合,判決の確定は上告の日から4ヶ月以上後になります。
第10 判決の場合,債権を回収できるとは限らないこと
1 全部認容判決(=全面的な勝訴判決)が下された場合であっても,相手方が任意に支払ってこない場合があります。
この場合,預貯金債権なり,給料なりに対して債権執行すること等により債権回収を図ることとなります。
しかし,相手方の預貯金債権等も勤務先等も不明である場合,全く債権の回収を図ることができません。
2 法律上認められる手段を利用して,相手方の財産を調査したとしても,相手方が破産手続又は民事再生手続に移行しない限り,相手方の財産の全体像を調査することは難しいです。
そのため,相手方が支払不能状態にある場合,相手方が速やかに破産手続又は民事再生手続に入って欲しいと考えている弁護士もいます。
3 勝訴判決を出してくれた裁判所が職権で相手方の財産を調査してくれることは絶対にないです。
4(1) 敗訴した相手方が破産手続開始の申立てを予定している旨の通知を送ってきた場合,強制執行をしても後日,破産管財人が付いたときに否認権(破産法160条以下参照)を行使されて強制執行による回収が事後的に無効になることがあります。
そのため,この場合は通常,新たな強制執行には着手しても意味がありません。
(2) 詳細については,「否認対象行為」を参照して下さい。
5 親戚等が連帯保証人になっていない限り,法律上の手段として,①債務者に対して親戚等から借りて返済しろと要求することはできませんし,②親戚等に対して立替払いを要求することもできません(「貸金業法等に基づく債務者保護」参照)。
第11 一定の取立行為の自粛
2 貸金業者等は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって,人を威迫し,又は以下に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはなりません(貸金業法21条1項,金融庁の貸金業者向けの総合的な監督指針Ⅱ-2-19「取立行為規制」)。
① 正当な理由がないのに,午後9時から午前8時までの時間帯に,債務者等に電話をかけ,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の居宅を訪問すること。
→ 「正当な理由」の例としては,(a)債務者等の自発的な承諾がある場合,及び(b)債務者等と連絡をとるための合理的方法が他にない場合があります。
② 債務者等が弁済し,又は連絡し,若しくは連絡を受ける時期を申し出た場合において,その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに,午後9時から午前8時までの時間帯に,債務者等に電話をかけ,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の居宅を訪問すること。
→ 「その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由」の例としては,以下のものがあります。
(a) 債務者等からの弁済や連絡についての具体的な期日の申し出がない場合
(b) 直近において債務者等から弁済や連絡に関する申し出が履行されていない場合
(c) 通常の返済約定を著しく逸脱した申出がなされた場合
(d) 申出に係る返済猶予期間中に債務者等が申出内容に反して他社への弁済行為等を行った場合
(e) 申出に係る返済猶予期間中に債務者等が支払停止,所在不明等となり、債務者等から弁済を受けることが困難であることが確実となった場合
③ 正当な理由がないのに,債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。
→ 「正当な理由」の例としては,(a)債務者等の自発的な承諾がある場合,(b)債務者等と連絡をとるための合理的方法が他にない場合,及び(c)債務者等の連絡先が不明な場合に,債務者等の連絡先を確認することを目的として債務者等以外の者に電話連絡をする場合があります。
④ 債務者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において,債務者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと。
⑤ はり紙,立看板その他何らの方法をもってするを問わず,債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。
→ これは,債務者等に心理的圧迫を加えることにより弁済を強要することを禁止する趣旨であり,債務者等から家族に知られないように要請を受けている場合以外においては,債務者等の自宅に電話をかけ家族がこれを受けた場合に貸金業者であることを名乗り,郵送物の送付に当たり差出人として貸金業者であることを示したとしても,直ちに該当するものではありません。
⑥ 債務者等に対し,債務者等以外の者からの金銭の借入れその他これに類する方法により貸付けの契約に基づく債務の弁済資金を調達することを要求すること。
→ 「その他これに類する方法」には,クレジットカードの使用により弁済することを要求すること等が該当します。
⑦ 債務者等以外の者に対し,債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること。
⑧ 債務者等以外の者が債務者等の居所又は連絡先を知らせることその他の債権の取立てに協力することを拒否している場合において,更に債権の取立てに協力することを要求すること。
⑨ 債務者等が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士等に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり,弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があった場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
→ 弁護士が代理人になった場合,債務者等本人と直接の連絡を取ることは原則として許されないということです。
なお,「正当な理由」の例としては,(a)弁護士等からの承諾がある場合,及び(b)弁護士等又は債務者等から弁護士等に対する委任が終了した旨の通知があった場合があります。
⑩ 債務者等に対し,前述したいずれかに掲げる言動をすることを告げること。
3 ①反復継続して,電話をかけ,電報を送達し,電子メール若しくはファクシミリ装置等を用いて送信し又は債務者,保証人等の居宅を訪問すること,及び②保険金による債務の弁済を強要又は示唆することは,「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当するおそれが大きいです(貸金業者向けの総合的な監督指針Ⅱ-2-19「取立行為規制」)。
第12 敗訴した相手方が破産手続等に移行した場合の取扱い
1 敗訴した相手方が破産手続に移行した場合の取扱い
(1) 敗訴した相手方が破産手続に移行した場合,破産手続を通じた配当を受領できるに過ぎず(破産法100条1項参照),個別に強制執行に着手することはできなくなります(破産法42条1項,249条1項参照)し,相手方が免責許可決定を取得した場合,全く回収できなくなります(破産法253条1項本文参照)。
そのため,破産管財人から配当表に基づく配当を受領できる場合があるに過ぎません。
(2) 破産者が破産申立てを取り下げることなく,裁判所で免責の判断を求めた場合,大阪地裁本庁では,99%以上の確率で免責許可決定が出ています。
2 敗訴した相手方が民事再生又は会社更生の手続に移行した場合の取扱い
敗訴した相手方が民事再生又は会社更生の手続に移行した場合,民事再生又は会社更生の手続の中での弁済を受領できるに過ぎず(民事再生法85条1項,会社更生法47条1項参照),個別に強制執行に着手することはできなくなります(民事再生法39条1項,会社更生法50条1項)。
そのため,①民事再生の場合,再生債務者(原則です。)又は管財人(管理命令が発令された場合です。)から再生計画に基づく配当を受領できるに過ぎませんし,②会社更生の場合,管財人から更生計画に基づく配当を受領できるに過ぎません。
3 取扱いの詳細
「破産手続開始決定と訴訟手続等との関係」,「破産手続開始決定と強制執行手続等との関係」及び「再生手続開始決定と訴訟手続及び強制執行手続との関係」を参照して下さい。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。