弁護士の守秘義務,弁護士職務基本規程等
第0 目次
第1の2 弁護士の守秘義務が解除される場合
第1の3 弁護士に相談することは通常,秘密保持義務の例外になること
第2 司法修習生による審理の傍聴,並びに記録の閲覧及び謄写
第3 一定の文書については,第三者に閲覧等をさせない方がいいこと
第4の1 ブログ等による相手方の批判は止めた方がいいこと
第4の2 検索結果の削除,ヤフー及びグーグルの対応並びに最高裁判例
第5 弁護士職務基本規程等に基づくその他の取扱い
第6 弁護士職務基本規程の条文
*0 河原崎法律事務所HPに「弁護士倫理」(平成2年3月2日日弁連臨時総会決議。平成6年11月22日改正)及び「弁護士職務基本規程」(平成16年11月10日会規第70号)の条文が載っています。
*1 「受任できない事件,事件処理の方針等」も参照してください。
*2 東弁リブラ2017年10月号に「インターネット検索サービスの表示削除をめぐる諸問題」が載っています。
*3 衆議院HPに「制定時の弁護士法」が,外部HPの「弁護士法の改正」にその後の弁護士法改正が載っています。
*4 日弁連弁護士倫理委員会が作成した解説「弁護士職務基本規程」第3版(2017年12月発行)は,日弁連審査部審査第二課で販売されています(日弁連HPの「解説「弁護士職務基本規程」第3版」参照)。
*5 日弁連HPの「外国法事務弁護士のためのご案内」に「弁護士職務基本規程(外国特別会員への読み替え版)」が載っています。
第1の1 弁護士の守秘義務及び証言拒絶権等
1 弁護士の守秘義務
(1)ア 「弁護士又は弁護士であった者は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負う。」とされているほか(弁護士法23条本文),「弁護士は,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならない。」(弁護士職務基本規程23条)とされており,守秘義務を課せられています。
イ 弁護士職務基本規程23条の「依頼者」には,個別事件を依頼した者のほか,以下の人が含まれます。
① 受任には至らなかった相談者
② 顧問先
③ 事件が終了した過去の依頼者
④ 組織内弁護士の雇用主
(2) 「所属弁護士は,他の所属弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし,又は利用してはならない。その共同事務所の所属事務所でなくなった後も,同様とする。」(弁護士職務基本規程56条)とされています。
そのため,依頼した弁護士と同じ法律事務所の弁護士もまた,依頼した弁護士の受任事件について守秘義務を負っています。
(3) 「(前略)弁護士(中略)又はこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」(刑法134条1項)とされており,弁護士には秘密漏示罪が存在します。
(4)ア 医師が医師としての知識,経験に基づく診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合の刑法134条1項の「人の秘密」には,鑑定対象者本人の秘密のほか,同鑑定を行う過程で知り得た鑑定対象者本人以外の者の秘密も含まれます(最高裁平成24年2月13日決定)。
イ 弁護士の場合,依頼者本人の秘密の他,弁護士業務を行う過程で知り得た依頼者本人以外の秘密についても守秘義務を負うこととがあります。
2 弁護士の証言拒絶権等
(1) 弁護士は,医師,歯科医師等と同様に,民事裁判において,①職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言を拒絶できます(民事訴訟法197条1項2号)し,②文書の提出を拒絶できます(民事訴訟法220条4項ハ)。
民事訴訟法197条1項2号所定の「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいいます(最高裁平成16年11月26日判決)。
(2) 弁護士は,医師,歯科医師等と同様に,刑事裁判において,①業務上委託を受けたため,保管し,又は所持する物で他人の秘密に関するものについては,押収を拒絶できます(刑事訴訟法105条・222条1項本文前段)し,②業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては,証言を拒絶できます(刑事訴訟法149条)。
ただし,捜索拒絶権まであるわけではありません。
(3) 依頼者と弁護士との間の電話については,裁判官の発する傍受令状(通信傍受法3条1項)をもってしても,捜査機関が傍受することができません(通信傍受法15条)。
なお,傍受とは,現に行われている他人間の通信について,その内容を知るため,当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで,これを受けることをいいます(通信傍受法2条2項)。
(4)ア 弁護士は,各議院から,議案その他の審査又は国政に関する調査のため,証人として出頭及び証言又は書類の提出を求められた場合(憲法62条参照)であっても,業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては,宣誓,証言又は書類の提出を拒むことができます(議院証言法4条2項本文)。
ただし,本人が承諾した場合はこの限りでありません(議院証言法4条2項ただし書)。
イ 弁護士に限りませんが,衆議院又は参議院の委員会における参考人として出頭した場合(いわゆる「参考人招致」のことです。)(衆議院規則85条の2,参議院規則186条参照),証言は任意ですし,国会で虚偽の事実を述べても偽証罪による処罰はありません。
第1の2 弁護士の守秘義務が解除される場合
以下の場合,弁護士の守秘義務が解除されます。
1 法律に別段の定めがある場合(弁護士法23条ただし書)
(1) 民事事件において,黙秘の義務を免除された場合(民事訴訟法197条2項)
例えば,依頼者の承諾がある場合です。
(2) 刑事事件において,本人が承諾した場合,証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(刑事訴訟法149条ただし書)
2 正当な理由がある場合(弁護士職務基本規程23条)
日弁連の「解説弁護士職務基本規程第2版」(平成24年3月発行)56頁ないし59頁によれば,以下のとおりです。
(1) 依頼者の承諾がある場合
(2) 弁護士の自己防衛の必要がある場合
ア 例えば,依頼事件に関連して弁護士自身が民事,刑事等の係争の当事者となり,あるいは懲戒審理の場や紛議調停の場において自己の主張,立証のため必要不可欠の場合です。
また,弁護士自身の名誉を守り,重大な誤解を解くために必要な限度内で秘密の開示が許されます。
イ 強制執行妨害罪,証拠隠滅罪,文書偽造罪等の嫌疑が弁護士自身に及んだときは,自らその嫌疑を払拭しなければならなくなるから,証言及び差押え応諾の必要性はその拒否義務に優先することがあり,このような場合,自己防衛上,依頼者の秘密開示が許されます。
弁護士が弁護士会照会,文書提出命令,捜査関係事項の照会を受けたとき,捜査官の事情聴取を受けるとき,税務調査を受けるときも,これに準じて取り扱われます(弁護士会照会につき日弁連HPの「弁護士会から照会を受けた皆さまへ」参照)。
(3) 公共の利益のために必要がある場合
ア 例えば,生命・身体への重大な危害を防止するために必要がある場合です。
ただし,「公共の利益」との利益考量を安易に行えば,弁護士の職務やこれに対する信頼を揺るがしかねないことに留意すべきとされています。
イ 犯罪収益移転防止法との関係でいえば,弁護士は,疑わしい取引の届出義務までは負わず,本人確認及び取引記録の保存義務を負うにとどまります。
第1の3 弁護士に相談することは通常,秘密保持義務の例外になること
そのため,弁護士に相談することは通常,秘密保持契約における秘密保持義務の例外となります。
① 乙から個別に別紙●の様式による書面により開示することの同意を得て開示する場合
② 甲及び甲の関係会社の役員及び従業員、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士その他甲に対して本契約に基づき甲が乙に負うのと同等以上の守秘義務を負う者に対して、合理的に必要な範囲内において、開示する場合
③ 法令又は政府機関、金融商品取引所、金融商品取引業協会、証券業協会の規則その他これらに準ずる定めに基づき甲に開示が要求され、これに応じて合理的に必要な範囲内において、開示する場合
④ [ベンチャー・キャピタル等の場合]甲又は甲組合が、乙の発行する株式、新株予約権付社債または新株予約権等を取得すると決定し乙に書面により通知した場合において、当該決定に関連して合理的に必要な範囲内において、甲は甲組合の出資者に対して秘密情報の全部又は一部を開示する場合
2 外部HPの「M&Aをご検討の方へ」にもあるとおり,守秘義務を負う買主であっても外部の弁護士に相談することは当然に予定されています。
3(1) 経済産業省HPに「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」が載っています。
(2) サインのリーデザイン(契約を再発明するメディア)HPに「経済産業省が公開する「NDA(秘密保持契約書)ひな形」をご存知ですか? 」が載っています。
第2 司法修習生等による審理の傍聴,並びに記録の閲覧及び謄写
依頼した弁護士が司法修習生の傍聴なり記録閲覧なりを断ることはできません。
2 依頼した弁護士は,将来の法律家育成に協力するため,受任事件の記録について,依頼者の明示の同意を得ることなく,①守秘義務の意義を理解している実務修習中の司法修習生,及び②エクスターンシップ制度の下に受け入れた法科大学院生に閲覧及び謄写(=コピー)をさせることがあります。
現在及び将来において,司法修習生等に受任事件の記録を閲覧及び謄写をされたくない場合,予め依頼した弁護士にその旨を伝えた方がいいです。
ただし,「弁護士は,事務職員,司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が,その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び,又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし,若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。」(弁護士職務基本規程19条)とされています。
3 司法修習生は,2年間の臨床研修(医師法16条の2以下参照)を行う医師(=研修医)みたいなものです。
ただし,研修医は,医師国家試験に合格し,医籍に登録されて,厚生労働大臣の免許を受けた医師であって,医療行為を業として行う資格を有しており(医師法17条),労働基準法9条及び最低賃金法2条所定の労働者に当たります(最高裁平成17年6月3日判決)ものの,司法修習生には,そこまでの職務権限はありません。
4 司法修習生の守秘義務等については,「司法修習生」を参照してください。
第3 一定の文書については,第三者に閲覧等はさせない方がいいこと
1 総論
(1) 「弁護士は,事件記録を保管又は廃棄するに際しては,秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなければならない。」(弁護士職務基本規程18条)とされています。
ここでいう「秘密及びプライバシー」に依頼者のそれが含まれることは当然ですが,一定の限度で,相手方の秘密及びプライバシーが含まれることがあります。
そのため,依頼した事件の報告の一環として送られた控え書類のうち,相手方の秘密又はプライバシーが記載されている文書を,受任事件と関係のない第三者に閲覧させ,又はコピーを交付するようなことは止めた方がいいです。
特に,書類のコピーを第三者に渡した場合,当該第三者を通じて,更に他の第三者に拡散する可能性があることに留意した方がいいです。
(2) 弁護士職務基本規程18条に基づき,相手方のプライバシーを依頼者に対して秘密にする必要がある場合,相手方の住所等の連絡先(刑事事件の場合につき刑事訴訟法299条参照)を抹消した上で,依頼者に控え書類を交付することがあります。
(3) 大阪弁護士会による照会(弁護士法23条の2)を通じて取得した回答書等の場合,大阪弁護士会との関係で目的外での使用を禁止されていますし,その内容によっては,依頼者にコピーをお渡しできないことがあります(大阪弁護士会弁護士法第二十三条の二に基づく照会手続規則8条)。
(4) 依頼した弁護士からの控え書類により初めて連絡先を知った事件関係者については,依頼した弁護士に無断で連絡を取ることは止めた方がいいです。
(5) 不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみからプライバシー侵害に基づく損害賠償請求が否定されるわけではありません(最高裁平成29年10月23日判決)。
2 検察官開示記録の取扱い
(1) 依頼者について刑事事件が係属している場合,依頼した弁護士は,検察庁において,当該事件に関する検察官の裁判所提出予定書類のコピー(=検察官開示記録)を取り寄せることができます(刑事訴訟法299条1項,刑事訴訟規則178条の6第1項1号)。
(2) 検察官開示記録を刑事裁判以外の目的で,人に交付し,又は提示し,若しくはインターネットに載せることは禁止されており(刑事訴訟法281条の4),違反があった場合,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(刑事訴訟法281条の5第1項)。
また,弁護士自身も,検察官開示記録を適正に管理し,その保管をみだりに他人にゆだねてはならないとされています(刑事訴訟法281条の3)。
(3) 刑事事件の裁判所に提出された書類については,①弁護人であれば公訴の提起「後に」刑事訴訟法40条に基づく閲覧及び謄写が可能であったり,②犯罪被害者であれば第1回公判期日「後に」犯罪被害者保護法3条に基づく閲覧及び謄写が可能であったり,③一定の理由があれば判決確定後に刑事訴訟法53条及び刑事確定訴訟記録法に基づく閲覧及び謄写が可能であったりします。
これに対して,刑事事件の裁判所に提出されなかった書類については,弁護人及び被告人以外の者が閲覧及び謄写をすることはまずできないという意味で,秘密性が一段と高くなります。
そのため,①弁護人が証拠とすることに同意しなかった書類なり,②検察官が任意で記録開示請求に応じた書類なりといった,刑事事件の裁判所に提出されなかった書類については,依頼した弁護士に無断で第三者に交付することは絶対に止めた方がいいです(刑事訴訟法281条の4第2項「当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか」参照)。
(4) 検察官開示記録を直接,民事訴訟等に利用することは刑事訴訟法281条の4に違反すると考える見解が存在します。
第4の1 ブログ等による相手方の批判は止めた方がいいこと
(1) ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損の場合,①その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,②その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,③上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠きます。
また,一般の私人である相手方の昔の前科情報をインターネットで公表した場合,名誉毀損又はプライバシー侵害として,場合によっては不法行為責任を追及される可能性があります(最高裁平成6年2月8日判決参照)。
第4の2 検索結果の削除,ヤフー及びグーグルの対応並びに最高裁判例
(1) 2ちゃんねるの場合,個人名・住所・所属・誹謗中傷・私生活情報・電話番号・メールアドレスといったメールで受け付けてもらえる重要削除対象であれば,メールで削除依頼することが考えられます(削除要請(入口)@2ch掲示板)。
2 ヤフーの対応
(1) ヤフーは,平成27年3月30日,「検索結果の非表示措置の申告を受けた場合のヤフー株式会社の対応方針について」を発表し,翌日から適用しています(外部HPの「ヤフーの検索結果から削除してもらう方法」参照)。
ヤフーは、被害申告者が非表示を求める情報について、その情報を公表されない被害申告者の法的利益とその情報を公表する理由との比較衡量を行います。個別の事案に応じて考慮する事情としては、被害申告者の属性(公職者か否か、成年か未成年かなど)、記載された情報の性質、当該情報の社会的意義・関心の程度、当該情報の掲載時からの時の経過等を考慮します。
3 グーグルの対応
外部HPの「検索結果から削除したいサイトや情報がある場合の対処法」が非常に参考になります。
4 検索事業者に関して検索結果の削除を求めることができる場合
この点に関して最高裁平成29年1月31日決定は,以下のとおり判示しています。
検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
第5 弁護士職務基本規程等に基づくその他の取扱い
1 弁護士職務基本規程等の説明
(1) 平成17年4月1日に施行された,日本弁護士連合会(=日弁連)の「弁護士職務基本規程」(平成16年11月10日会規第70号)は,弁護士の職務に関する倫理及び行動規範を明らかにしたものです(弁護士職務基本規程の前文参照)。
(2) 従前は①弁護士倫理(昭和30年3月19日日弁連理事会決議),又は②弁護士倫理(平成2年3月2日日弁連臨時総会決議)によって規律されていました。
2 弁護士職務基本規程に基づく取扱い
(1) 「弁護士は,真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うものとする。」(弁護士職務基本規程5条),「弁護士は,偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし,又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。」(弁護士職務基本規程75条)とされています。
そのため,依頼した弁護士は,正しいと思われる事実関係と異なる事実関係を主張することはないと思います。
(2) 「弁護士は,不当な目的のため,又は品位を損なう方法により,事件の依頼を誘発し,又は事件を誘発してはならない。」(弁護士職務基本規定10条)とされています。
「不当な目的」とは,例えば,金銭の利得などもっぱら自己の利益獲得をもくろみ,依頼者又は依頼者となるべき者の利益を省みないことをいいます。
「品位を損なう方法」とは,例えば,面識のない不特定多数の者や交通事故の被害者等に対し無差別に自己への依頼を働きかける文書を送るなど,弁護士に対する社会的評価や信用を毀損する方法をいいます。
(3) 「弁護士は,係争の目的物を譲り受けてはならない。」(弁護士職務基本規程17条)とされています(弁護士法28条も同趣旨の規定です。)。
(4) 「弁護士は,特別の事情がない限り,依頼者と金銭の貸借をし,又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し,若しくは依頼者の債務について保証をしてはならない。」(弁護士職務基本規程25条)とされています。
そのため,依頼した弁護士が依頼者に対して金銭の貸し付けを依頼したり,依頼者の借金等を肩代わりしたりすることはないと思います。
(5) 「弁護士は,依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じないように努め,紛議が生じたときは,所属弁護士会の紛議調停で解決するように努める。」(弁護士職務基本規程26条)とされています。
これは,弁護士と依頼者との関係は,秘密保持義務の要請から公開の手続になじみにくい面があること等にかんがみ,弁護士会が主催する非公開の紛議調停の手続で解決するのが望ましいとされたものです。
(6) 「弁護士は,事件の処理に当たり,必要かつ可能な事実関係の調査を行うように努める。」(弁護士職務基本規程37条2項)とされています。
実際,依頼者の述べるところを鵜呑みにして調査を全くせず事実と異なる主張をしたことにより,依頼した弁護士が相手方から紛議・調停の申立てを受けることがあります。
そのため,相手方と連絡を取る前に,依頼した弁護士において一定の裏付け調査をすることがあると思います。
(7) 「弁護士は,事件に関して依頼者,相手方その他利害関係人から金員を預かったときは,自己の金員と区別し,預り金であることを明確にする方法で保管し,その状況を記録しなければならない。」(弁護士職務基本規程38条)とされています。
そのため,依頼した弁護士は,委任契約書において,着手金及び報酬金を振り込んでもらう口座と,概算実費を振り込んでもらう口座を分けていることが多いと思います。
(8) 「弁護士は,相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは,正当な理由なく,その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」(弁護士職務基本規程52条。なお,同趣旨の規定につき大阪弁護士会会則107条)とされています。
そのため,相手方に弁護士又は認定司法書士が代理人として就任した場合(認定司法書士につき司法書士法3条1項6号),相手方本人に連絡をすることはできなくなります。
(9) 「弁護士は,受任している事件に関し,相手方から利益の供与若しくは供応を受け,又はこれを要求し,若しくは約束をしてはならない。」(弁護士職務基本規程53条)とされています。
また,「弁護士は,受任している事件に関し,相手方に対し,利益の供与若しくは供応をし,又は申込みをしてはならない。」(弁護士職務基本規程54条)とされています。
そのため,依頼した弁護士が,受任している事件の相手方は当然ですが,特段の事情がない限り,①将来受任が予定されている事件の相手方なり,②過去に受任して処理を終えた事件の相手方なりとの間で,利益の供与等をすることはないと思います。
第6 弁護士職務基本規程の条文
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。