判決に基づく強制執行

第0 目次

第1  全く債権の回収をできない場合があること
第2  差押えの対象とならない財産
第3  強制執行の手続に関する留意点
第4  債権差押えの申立て前の留意点
第5  債権差押えの申立て後の留意点
第6  敗訴した相手方が強制執行に対して争う方法
第7  公務の執行を妨害する罪
第8  債権差押えと譲渡禁止特約との関係等
第9  財産開示手続
第10 相手方が自己破産又は個人再生をした場合の取扱い
第11 民事執行手続に関する研究会報告書

*1 「婚姻費用又は養育費の不払いがあった場合の強制執行等」も参照してください。
*2 東京地裁HPの「執行事件記録の閲覧謄写事務に際してのご注意」には,閲覧申請時の持参書類,不動産執行事件関係における利害関係人の代表例等が載っています。
*3 最高裁判所が運営しているBIT(不動産競売物件情報サイト)に,全国の不動産競売物件情報等が載っています。
*4 執行官等に関する事務について(平成6年12月20日付の最高裁判所事務総長通達)を掲載しています。
*5 不動産競売の実情及び執行官については,元執行官曝松公平(されまつこうへい)の以下のHP及びブログが参考になります。
① 不動産競売価格統計
② 不動産競売「戸建て」市場の活性度
③ 曝松公平の執行官ブログ
*6 不動産執行事件の場合,売却基準価額の決定までは,現況調査報告書及び評価書の閲覧謄写申請をすることはできません(東京地裁民事第21部HP「執行事件記録の閲覧謄写申請に際してのご注意」参照)。
*7 さいちゃん,銀行辞めたってよブログ「銀行を辞めたいと思う/辞めた方がいい「100」の理由【銀行員は必ず共感する】 」が載っています。
*8 物上保証人に対する不動産競売において,債務者に対する被担保債権の消滅時効中断の効力が生じた後,債権者が右競売の申立てを取り下げたときは,時効中断の効力は,初めから生じなかったことになります(最高裁平成11年9月9日判決)。
*9  担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け,同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合,当該債務者の相続人は,民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」に当たりません(最高裁令和3年6月21日決定)。

第1 全く債権の回収をできない場合があること

1(1)   全部認容判決が下された場合であっても,相手方が任意に支払ってこない場合がありますところ,その場合,預貯金債権等に対して債権執行すること等により債権回収を図ることとなります。
   しかし,以下のような場合,相手方が破産手続又は再生手続に移行しない場合であっても,全く債権の回収をできないことがあります。
①   預貯金
(a)   存在自体が不明である場合
→   ただし,執行実務では,第三債務者である銀行の複数の店舗のうちの一つをその名称により個別具体的に特定して表示すれば足りるという意味で支店名個別特定方式がとられています(東京高裁平成23年10月26日決定参照)。
   そのため,銀行名及び支店名さえ分かれば,預金種類及び口座番号まで知っている必要はないです。
(b)   相手方に銀行等からの借入がある場合
(c)   銀行等に対する権利質(民法362条)の設定がある場合
②   土地建物
(a)   銀行等の抵当権によりオーバーローン(=担保不足)の状態である場合
→   被担保債権の額と,国税庁発表の路線価(毎年22年7月1日に発表されています。)との比較によりおおよその見当は付きます。
(b)   税務署,府税事務所,市税事務所等の滞納処分に基づく差押え又は参加差押えがある場合
→   年14.6%の延滞税(国税通則法60条2項。平成25年分までは年14.6%,平成26年分は年9.2%,平成27年分は年9.1%)又は延滞金(地方税法321条の2第2項等)が発生する税金を滞納しているということは,それだけ資金繰りが苦しいということです。
③   売掛金
(a)   第三債務者となる売掛先が,債務者である相手方に対し,反対債権による相殺を主張できる場合
(b)   相手方が既に,競合債権者のために集合債権譲渡担保を設定している場合(最高裁平成13年11月22日判決参照)
→    債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされた時点で対抗要件を具備します(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項)ものの,通常は相手方が支払不能になる前に登記されています。
④   有価証券
(a)   銀行等に対する権利質(民法362条)の設定がある場合
⑤   登録自動車
(a)   自動車登録番号(=プレートナンバー)が不明である場合
(b)   自動車ローン会社の留保所有権が残っている場合
⑥   家財道具その他の動産類
(a)   日常生活に不必要な高価な品物がない場合
→   家財道具は原則として差押禁止動産に該当します(民事執行法131条1号等参照)。
(b)   セール・アンド・リースバックがなされている場合
→   リース会社にすべての動産を売却した上で,リース会社からリースを受けている状態のことをいいますところ,この場合,動産類の所有権はリース会社にありますから,動産執行の対象とすることはできません。
   この方法は,動産執行に対する有力な妨害手段として利用されています。
(c)   相手方が既に,競合債権者のために在庫商品等について集合動産譲渡担保を設定している場合(最高裁昭和62年11月10日判決参照)
→   動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされた時点で対抗要件を具備します(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項)ものの,通常は相手方が支払不能になる前に登記されています。

2(1)   土地建物といった不動産を対象とする不動産執行を申し立てる場合,申立ての際に90万円以上の民事執行予納金(民事執行法14条1項前段参照),及び請求債権の0.4%の登録免許税を納付する必要があります(大阪地裁第14民事部(執行)HPの「不動産執行申立てに必要な書類等」参照)。
   不動産執行における民事執行予納金は,①現況調査報告書を作成する執行官の報酬,②評価書を作成する評価人の報酬,③執行官の売却実施手数料等に使用されます。
(2)   0.4%の登録免許税は収入印紙で納付しますところ,当該収入印紙は,裁判所が法務局に対し差押登記を嘱託する際に使用されます。

3(1)    集合債権譲渡担保の有無は,「債権譲渡・質権設定登記の登記事項概要証明書」を法務局で取り寄せない限り,設定されているかどうかは分かりません(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律11条1項)。
(2)    集合動産譲渡担保の有無は,「動産譲渡登記の登記事項概要証明書」を法務局で取り寄せない限り,設定されているかどうかは分かりません(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律11条1項)。
    集合動産譲渡担保の効力は,目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及びます(最高裁平成22年12月2日決定)。
   そのため,一般の債権者は損害保険金を差し押さえることもできません。

4(1)   相手方が休眠会社である場合,会社からの債権回収は不可能です。
(2)   休眠会社とは,株式会社であって,当該株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したものをいい(会社法472条1項本文),取締役の任期が最大で10年であること(会社法332条2項)を考慮した定めになっています。

第2 差押えの対象とならない財産

「債権差押えに関するメモ書き」に移転させました。

第3 強制執行の手続に関する留意点

「債権差押えに関するメモ書き」に移転させました。

第4 債権差押えの申立て前の留意点

「債権差押えに関するメモ書き」に移転しました。

第5 債権差押えの申立て後の留意点

「債権差押えに関するメモ書き」に移転しました。

第6 敗訴した相手方が強制執行に対して争う場合

「強制執行に対する債務者の対抗手段」に移転しました。

第7 公務の執行を妨害する罪

「債権差押えに関するメモ書き」に移転しました。

第8 債権差押えと譲渡禁止特約との関係等

「債権差押えに関するメモ書き」に移転しました。

第9 財産開示手続

1 財産開示手続(民事執行法196条ないし203条)は,過料の制裁を背景として,債務者のプライバシーに属する情報である財産に関する情報の開示を強制するものでありますから,この手続を実施するのは,債権者が強制執行等の申立てを行うためにこの手続を利用する必要性がある場合に限られています。
   そして,その必要性がある場合として,①民事執行法197条1項1号で「強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。」,②同項2号で「知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。」と規定しています。
   このような財産開示の必要性について,①同項1号は,これに該当する事実があれば,それだけで当該必要性があるとみなされる形式的な要件であり,②同項2号は,具体的事案に応じて必要性の疎明が要求されることを示す実質的な要件です。

2 1号の要件を満たすためには,現実に債権差押えの申立て等をして,配当期日又は弁済金交付期日において請求債権の全額を回収できなかった必要があるのであって,単に債権差押えの申立てをしただけでは足りません(東京高裁平成21年3月31日決定参照)。
    また,2号の要件を満たすためには,申立人が現実に知っている債務者の財産を申告すれば足りるというわけではないのであって,最低限,①債務者の住所地の土地建物の不動産登記簿謄本,及び②住所地の地番及び住所地の住居表示の対応関係を説明する資料(例えば,(株)ゼンリンのブルーマップ(=住居表示地番対照住宅地図))を提出する必要があります。

3 ①財産開示の申立てを行う場合,及び②他の財産開示事件の記録を閲覧又は謄写をする場合,執行文の付与を受けた確定判決の正本を裁判所に提出する必要があります(①につき民事執行法197条1項,②につき民事執行法201条2号)。

4   財産開示事件の記録は,自分が有する債権を行使する目的以外の目的のために利用したり,提供したりできません(民事執行法202条)。

5 判決確定証明書は,原則として,第一審裁判所の裁判所書記官が訴訟記録に基づいて交付します(民事訴訟規則48条1項)。

6 財産開示決定が出たとしても,債務者が財産開示期日に出頭するとは限りませんし,出頭しないことに対しては30万円以下の過料の制裁しかありません(民事執行法206条1項)ため,実効性は極めて低いです。

7 大阪地裁第14民事部の場合,過料の制裁の上申がなされた件数は,平成21年が8件,平成22年が17件,平成23年1月~10月末日までが18件であり,うち処罰された件数は,平成21年が8件,平成22年が12件,平成23年が6件であり,過料の該当事由はいずれも期日不出頭だけです。
    ただし,平成23年に過料制裁を上申された事件のうち,平成23年10月末日現在,7件が未済です(月刊大阪弁護士会24年4月号46頁)。

第10 相手方が自己破産又は個人再生をした場合の取扱い

「破産手続開始決定と強制執行手続等との関係」及び「再生手続開始決定と訴訟手続及び強制執行手続との関係」を参照して下さい。
 


第11 民事執行手続に関する研究会報告書

1 一般社団法人金融財政事情研究会HPに掲載されている,平成28年6月作成の「民事執行手続に関する研究会報告書」は,民事執行手続の当面する課題について,立法に向けた本格的な検討に先立って,関係する様々な論点を整理し,規律の在り方等を研究したものです。
 
2 債務者財産の開示制度の実効性の向上,不動産の競売における暴力団員の買受け防止の方策,子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化,債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し等について書いてあります。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。