司法修習生の欠席,罷免及び逮捕並びに民間労働者との比較

第1の1 司法修習生の罷免

1 司法修習生は,以下のいずれかに該当した場合,罷免されます(司法修習生に関する規則17条)。

1号 禁錮以上の刑に処せられた場合
→ 執行猶予付の有罪判決を受けた場合も含まれます。
2号 成年被後見人又は被保佐人となった場合
3号 破産手続開始決定を受けた場合
 
2(1) 司法修習生は,以下のいずれかに該当した場合,罷免されることがあります(司法修習生に関する規則18条)。
1号 品位を辱める行状、修習の態度の著しい不良その他の理由により修習を継続することが不相当であるとき。
→ 「品位を辱める行状」を理由に罷免されたのは23期,33期,34期及び70期の4人です。
2号 病気、成績不良その他の理由により修習を継続することが困難であるとき。
→ 例えば,二回試験に不合格となった場合,退職願を提出しなければ,「成績不良により修習を継続することが困難であるとき。」を理由として罷免されます。
3号 本人から願い出があったとき
→ 例えば,二回試験に不合格となった場合,退職願を提出すれば,「本人から願い出があったとき。」を理由として罷免されます。
(2)ア 司法修習生に関する規則18条は,平成18年4月1日施行の平成18年2月23日最高裁判所規則第3号により,5号まであった条文が3号までとなりました。
   新旧の条文が平成18年1月24日の司法修習委員会(第10回)資料一覧の資料35として掲載されています。
イ 改正前の罷免事由は以下のとおりでした。
1号 品位を辱める行状があったとき
2号 修習の態度が著しく不真面目なとき
3号 成績不良で修習の見込みがないとき
4号 病気のため修習に堪えないとき
5号 本人から願出があったとき
(3) 昭和46年4月6日の毎日新聞朝刊1頁によれば,修習の態度の著しい不良を理由に昭和44年にあった罷免事例が,最初の司法修習生の罷免事例であるとのことです。
   また,昭和55年11月13日の毎日新聞夕刊によれば,同日時点で司法修習生が罷免された前例は4人であり,うち2人は本人からの申出であり,1人は修習の態度の著しい不良が罷免理由であり,1人は阪口徳雄修習生です。

3(1) 司法研修所長は,司法修習生に罷免事由がある場合,最高裁判所長官に報告しなければなりません(司法修習生に関する規則19条1項)。
   高等裁判所長官,地方裁判所長,検事長,検事正及び弁護士会会長は,監督の委託を受けた司法修習生に罷免事由がある場合,司法研修所長を経て,最高裁判所長官に報告しなければなりません(司法修習生に関する規則19条2項)。
(2) 平成18年11月9日開催の司法修習委員会(第11回)資料38には,「司法修習生の罷免が,当該司法修習生の権利義務の消滅につながるものであることから,罷免事由の最高裁判所への報告(司法修習生に関する規則19条)に当たって,司法研修所長又は地方裁判所長等は,事実関係を慎重に調査するとともに,対象となる司法修習生の弁明を聴くなどの措置を講ずることとする。」と書いてあります。
 
4 司法修習生を罷免された場合,原則として,修習資金の貸与金について期限の利益を失います(司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則8条2項1号・6条2号)。
   しかし,二回試験に不合格となったことを理由として罷免された場合,当該罷免の時点で司法修習生への再採用を希望していれば,例外的に期限の利益を失いません(司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則8条2項1号括弧書き・修習資金貸与要綱21条3項1号)。
 
5 外部HPの「質問:いずみ寮について教えてください。」によれば,作成者である53期の弁護士の場合,火気厳禁のいずみ寮の部屋において火災報知器を大きめの紙皿で覆ってしまった上で,部屋の中にガスコンロを持ち込んで10人くらいで焼き肉パーティーやしゃぶしゃぶパーティーをしていたそうです。 

司法修習生バッチです。

第1の2 「品位を辱める行状」があったことを理由とする司法修習生の罷免事例及び再採用

1 23期の阪口徳雄修習生(昭和44年4月採用)の事例
(1)ア 阪口徳雄修習生は,昭和46年4月5日(月)の午前中に司法研修所講堂で行われた修習終了式において,23期の裁判官志望者7人に対する任官拒否に抗議するため,司法研修所長のマイクを手にとって,「裁判官への任官を拒否された修習生7人に発言させる機会を与えて欲しい」などと発言を始めたため,約1分後に司法研修所事務局長が修習終了式の終了を宣言したという事件を発生させました。
   最高裁判所は,同日午後6時から臨時の裁判官会議を開催し,「品位を辱める行状」があったということで,阪口徳雄修習生に弁明の機会を与えることなく,同人を罷免しました。
イ 23期の裁判官志望者7人に対する任官拒否については,昭和46年4月5日午後1時半頃,23期の裁判官内定者55人のうちの40人が有志で,「青法協会員ら7人の任官拒否は思想・信条,団体加入による差別の疑いが強い。このまま裁判官として職務につくことは耐えがたい不安を感じる。不採用の理由を明らかにせよ」などとする要望書(署名者は23期裁判官内定者45人)を矢口洪一最高裁判所人事局長に提出するため,最高裁判所に赴きました。
   しかし,最高裁判所は彼らが構内に入ることを拒否し,要望書を受け取りませんでした。
ウ 阪口徳雄修習生に対する罷免通知の時刻につき,昭和46年4月6日の毎日新聞朝刊では,午後7時40分頃に司法研修所事務局長から罷免通告が伝えられたと書いてあります。
   これに対して昭和46年5月8日の日弁連臨時総会決議では,午後8時26分に罷免処分が言い渡されたと書いてあります。
エ 外部ブログの「司法研修所卒業式」によれば,当日午後7時頃,卒業式の中止が伝えられたそうです。
オ 23期は昭和46年4月5日付で司法修習を終了し,同月6日の官報にその氏名が公表され,同月8日の官報に「阪口徳雄を削除」という訂正記事が載りました。
カ 平成29年3月15日付の司法行政文書不開示通知書によれば,昭和46年4月に司法修習生を罷免した際の最高裁判所裁判官会議議事録は存在しないそうです。
(2)ア 外部ブログの「荒れた司法研修所終了式」によれば,23期の裁判官任官希望者に対しては,昭和46年3月30日,最高裁判所人事局長から,4月6日付で判事補の採用内定通知が電報で届いたものの,7人については不採用の通知がされ,そのうちの6人が青法協会員だったそうです。
   また,終了式当日は,「修習生有志で組織された『任官・再任拒否を許さぬ会』の面々が『司法の魔女狩りを許すな』のプラカ-ドを掲げ,中庭では携帯マイクで叫ぶ人,ビラをまく人がそれぞれ息巻いて,さながら大学紛争の様相を呈していた」そうです。
イ 7人の任官拒否等に関しては,日弁連会長は,昭和46年4月3日,「13期裁判官の再任拒否問題に関する談話」を出しました。
   なお,13期裁判官は,宮本康昭熊本地家裁判事補のことです。
(3) 東京都千代田区紀尾井町にあった司法研修所は,この事件の3日後,東京都文京区湯島に移転しました。
   23期の修習終了式と25期の修習開始式(昭和46年4月16日)の合間を縫って司法研修所の移転作業が行われたわけです。
(4) この事件では,日弁連が昭和46年5月8日に臨時総会を開催して抗議決議を出しました(日弁連HPの「臨時総会・司法修習生の罷免に関する決議」参照)。
   また,同決議によれば,この事件に関する矢口洪一最高裁判所人事局長の国会答弁は,阪口徳雄修習生の実際の行動とは異なるとのことです。
(5)ア 23期の場合,昭和44年6月に東大を卒業した司法試験合格者を対象として,昭和44年7月1日付で26人の司法修習生が採用され(日弁連HPの「臨時総会・司法修習生の追加採用に関する決議」(昭和44年7月12日付)参照),昭和46年6月,25期の前期修習中に二回試験が実施されました。
   23期(昭和44年7月採用)の修習終了式は,昭和46年7月1日午前10時から司法研修所会議室で行われ,10人が判事補に,6人が検事に,10人が弁護士になりました。
イ   10人の判事補は全員が東大出身であり,現役合格4人・1年遅れ5人・2年遅れ1人であり,退官時のポストは,東京高裁長官1人,名古屋高裁長官2人,知財高裁所長1人,東京高裁部総括2人,名古屋地裁所長1人,さいたま地家裁熊谷支部長1人,名古屋家地裁判事1人,静岡家地裁判事1人です。
   23期全体の場合,退官時のポストは,高裁長官5人,知財高裁所長1人,東京高裁部総括5人,大阪高裁部総括6人,広島高裁部総括2人,福岡高裁部総括3人,仙台高裁部総括1人,札幌高裁部総括2人,地家裁所長10人(うち,1人は弁護士任官者)ですから,23期(昭和44年7月採用)の10人の判事補の出世率は非常に高いものでした。
ウ 昭和44年1月18日から同月19日にかけて東大安田講堂攻防戦が行われたこともあって,昭和44年度は東大入試がありませんでした。
(6) 阪口徳雄修習生は,2年後の昭和48年4月16日,司法修習を終え(昭和48年4月18日の官報参照),25期の弁護士になっています。

2 33期の男性司法修習生(昭和54年4月採用)の事例
(1)   ①岐阜地裁刑事部で実務修習中の昭和55年11月8日午後1時10分頃,地元の女子高生の通学路になっている路上で,下校中の女子高生5人に下腹部を露出する卑猥な行為をしたこと,並びに②昭和49年2月及び昭和54年2月に公然わいせつ行為での検挙歴があったことにかんがみ,昭和55年11月13日(木),「品位を辱める行状」があったということで罷免されました(昭和55年11月13日の毎日新聞夕刊)。
(2) 昭和55年11月12日の最高裁判所裁判官会議議事録を掲載しています。
(3) ネットの記事によれば,33期の元修習生は毎年,再採用の申し出を出したものの,最高裁判所に拒否され続けたみたいです。
 
3 34期の男性司法修習生(昭和55年4月採用)の事例
(1) ①司法修習期間中の昭和55年6月から昭和56年6月にかけて,知り合いの女性の父親に対し,過去の扶養料を取り立てるため,この父親の自宅,職場に手紙や電話で金の支払を頻繁に求めたこと,及び②金の支払を求めた際,司法研修所の用紙や東京地裁の裁判官が使う用紙などを用いて支払を催促しており,最終的には300万円を要求したことにかんがみ,昭和56年11月25日(水),「品位を辱める行状」があったということで罷免されました(昭和56年11月30日の日本経済新聞夕刊)。
(2) 34期の元修習生は,昭和59年4月4日に司法修習を終え,36期の弁護士になっています。
   そのため,2年後に再採用してもらえたものと思われます。
 
4 70期の男性司法修習生(平成28年11月採用)の事例
(1) 平成28年12月,司法研修所の寮の談話室で飲食した際,同期の女性司法修習生2人にみだらな言動をしたほか,ズボンと下着を脱いで下半身を露出したため,平成29年1月18日,「品位を辱める行状」があったということで罷免されました。
(2) 外部ブログの「70期千葉修習の罷免」によれば,12月22日(木)の導入修習終了後の話みたいです。
   そして,12月23日(金)がいずみ寮の退去日であったことからすれば,導入修習終了後の打ち上げでの出来事だったのかも知れません。 
(3) ちなみに,水戸地検検事正(当時)は,平成23年2月14日の夜,水戸市内のスナックで酒に酔い,居合わせた客や同地検次席検事(当時)ら4人に対し,マイクで頭を殴ったり,髪の毛を引っ張ったりしました。
   しかし,東京地検は,平成23年10月13日,暴行の事実はあったとした上で,「酒に酔った際の偶発的な事案で,被害者も処罰を望んでいない」として,起訴猶予にとどめました。
   また,職務時間外の行動でしたから,懲戒等の人事上の処分は行われませんでした(外部ブログの「水戸地検検事正(当時。現・最高検検事)が,たたく・蹴るの暴行して。不起訴。懲戒処分無し」参照)。
 
5 罷免された後の再採用
(1)ア 「品位を辱める行状」があったことを理由に罷免された司法修習生が再採用を申し出た過去の先例では,①司法研修所の修習終了式を妨害したとされた23期司法修習生,及び②知り合いの女性に頼まれて家族の離婚問題に介入し,恐喝まがいの行為をしたとされた34期司法修習生については,2年度に再採用が認められたみたいです。
   これに対して公然わいせつ行為を行った33期の司法修習生については,再採用が認められなかったみたいです。
イ   報道されている事実を前提とすれば,公然わいせつ行為を行った70期の司法修習生の場合,再採用が認められなかった33期の司法修習生よりも情状は軽い気がします。
(2) 昭和56年11月30日の毎日新聞夕刊によれば,司法修習生が罷免されたのは,昭和56年11月25日付の罷免を含めて9人であり,うち6人は成績不良や病気などによるものであるところ,33期の司法修習生を除く7人は,後日,再採用されたそうです。
(3)  二回試験不合格という成績不良を理由に罷免された司法修習生について再採用が認められるのは早くても1年後であることにかんがみ,それよりも情状が悪い,素行不良を理由に罷免された司法修習生については,2年後に再採用を認めるという運用をしてきたのかもしれません。
 
6 性犯罪を犯した裁判官(参考)
   「法務省出向中の裁判官の不祥事の取扱い」を参照してください。

第1の3 司法修習生が罷免された場合の不服申立方法等

1 大西勝也最高裁判所事務総局人事局長は,昭和56年12月21日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 司法修習生が罷免されました場合の不服申し立て方法といたしましては、まず問題がないと思われますのは、行政事件訴訟法に言っておりますいわゆる抗告訴訟の対象になるということで、訴訟の道があるというふうに解釈できるであろうというふうに思います。
   もう一つの、いま稲葉委員御指摘になりました行政不服審査法による不服の申し立ての関係につきましては、あるいはこれも法律解釈の問題でございまして、違う意見もあるいはあるかもしれませんけれども、一応行政不服審査法のたしか四条にできない場合のことが列挙してございまして、その中には研修所の研修生というようなものも入っておるわけでございます。それはそれといたしましても、修習生はそもそも国家公務員ではないというふうに考えられておりますことからいいましても、ちょっと行政不服審査法による不服の手続に乗っけることはできないのではないかというふうに私どもは考えております。要するに、行政事件訴訟法による訴訟によって救済ができるというふうに考えております。
② 修習生の罷免の問題について、確かにそういう問題(注:最高裁判所は、自分で処分していて、罷免していて、それが上がってくれば、罷免せずという判決をするわけないでしょうという問題)がございますが、これは単に修習生だけの問題ではございませんで、裁判所職員全体につきましての、最高裁判所が任命権を持っております職員に対する懲戒処分の問題でございますとか、その他いろいろ最高裁判所自体が行政上判定をいたしますものに対して訴訟が起こってくる、それの最終審がやはり最高裁判所であるという意味では、同じようなことがほかにもあるわけでございますが、最高裁判所としては、その行政権の主体として一定の行政目的を達成するために処分をいたします場合、それと訴訟が起こってきまして両方の当事者の言い分を聞きまして判決を下す、決定を下すという場合は、つまり別の次元に立って一応考えるということをやっておるつもりでございますし、憲法もそれを予想して両方を最高裁判所に与えておるというふうになるのではないかというふうに考えておる次第でございます。
  
2 林道晴司法研修所事務局長は,平成18年1月24日の司法修習委員会(第10回)において,以下の発言をしています。
① 罷免事由の規定については,司法修習生の身分の得喪にかかわる事項であり,従前から,その適用に当たっては十分に調査をした上で,必要があれば当該司法修習生と面談するなどしてきたし,今後もこの規定の適用に当たっては,同じように事前調査,当該司法修習生からの事情及び意見の聴取等の手続をとって慎重に行っていく。
   罷免された司法修習生に罷免事由の有無等について不服があっても,不服申立手続を規定したものは存在しない。ただし,司法修習生の身分の得喪にかかわる事由であり,修習を続けることができなくなるという効果がある関係上,罷免の決定後に,例えば公務員法上の公平審理のような不服審査ないし再審査手続のようなものを設けるのか,あるいは罷免に処分性があることを前提とした行政訴訟の手続にゆだねるのかどうかが考えられる。司法修習生に対する罷免自体が最高裁の決定によっていることもあり,司法修習生の身分の特殊性ということもあるので,このような特質や性質を勘案しながら,不服申立手続につき検討を続けていきたいと考えている。現段階では,その検討の方向性を具体的に申し上げることはできないが,結論が出た段階で何らかの形で委員会に報告したい。
② 過去の先例については,記録の保存期間の関係があり全ては把握しきれなかった。ただし,過去には,例えば病気によって罷免された者については,その病気が治り修習に耐えられるということになれば,再度修習を開始することについては何ら問題がないため,再採用をした例は結構あるようだ。また,いわゆる非違行為を起こした司法修習生を罷免した後,社会的にも許される期間が経過したというようなことだと思うが,再採用して修習を終了したというケースもあるようだ。このように,従前は,罷免されても,再採用という形で対処してきた面がある。このようなことから,行政訴訟等が真剣に議論された形跡というのは,調査した限りでは確認できなかった。今後,司法修習生が増えると,残念ながら罷免が問題になる者も増えることも考えられる。一方,行政事件訴訟法等も改正され,その不服申立に関する規定が整備されつつあるという状況もある。司法修習生の身分の特殊性を踏まえつつ,不服申立手続の要否,そして必要とされる場合いかなる手続が妥当かといった点を検討し,早急にその結論を出していきたいと考えているところである。
③ 指摘のとおり,司法修習生についても非違行為の内容や程度に応じて厳重注意,注意,さらに事実上の注意というような形で非違行為に対処している。
   それらの措置をする前には,司法研修所で修習中の場合には同研修所において,実務修習中の場合には配属庁会において,事実関係等を調査し,その過程で司法修習生本人の言い分もしっかり聞いている。非違行為の内容や程度に応じて,まずそのような注意処分で対処できないかどうかを考えることになる。事案として特に多いのは交通違反である。また,残念ながら,酒を飲みながら暴言を吐いたとか,人に嫌な思いをさせたというような非違行為もある。たとえば,交通事故であれば,物損であるか人損であるのか,あるいは相手方と損害について話し合いがついているのかどうかといったことも勘案しながら,事案に応じて注意処分をしている。この注意処分によって対処している例が大多数だと思う。罷免規定を改正した後においても,まずは注意処分によって対処できる事案かどうかを検討することになるだろう。
 
3(1)ア 平成28年4月1日,最高裁判所行政不服審査委員会が設置されました(裁判所HPの「最高裁判所行政不服審査委員会」参照)。
   そのため,司法修習生が最高裁判所の罷免処分に対して不服がある場合,最高裁判所に対する審査請求ができると思います(最高裁判所行政不服審査委員会規則1条参照)。
イ 行政不服審査法に基づく審査請求をした場合の取扱いは,「行政不服審査法に基づく審査請求書の受付等に関する事務処理要領」(平成28年7月20日付)に書いてあります。
   ただし,平成29年3月21日付の司法行政文書不開示通知書によれば,司法修習生の兼職不許可及び罷免が,行政不服審査法の対象となるかどうかが分かる文書は存在しません。
(2)ア 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会の場合,不開示等に関する最高裁判所事務総長の判断を是正すべきとしたのは,司法大観は司法行政文書に該当すると判断した平成28年度(最情)答申第40号(平成28年12月21日答申)だけです(「裁判所の情報公開」参照)。
   そのため,最高裁判所に対する審査請求によって最高裁判所の判断が是正される可能性は極めて小さい気がします。
イ 最高裁判所に対する審査請求によって罷免処分を争ったものの,結果として最高裁判所の判断が是正されなかった場合,その後の再採用において不利益に斟酌されるかも知れません。
(3) 二回試験に不合格となったにもかかわらず,退職願を提出しなかった場合,「成績不良により修習を継続することが困難であるとき。」(司法修習生に関する規則18条1号)を理由として罷免されますところ,答案のつづりミス等の場合にまで1号に該当するというのは変な気がします。
   そのため,二回試験不合格により罷免された司法修習生が最高裁判所に対して審査請求をした場合,最高裁判所の罷免処分が是正される可能性がないわけではない気がします。
   しかし,仮に最高裁判所の罷免処分が是正されたとしても,司法修習生として兼業禁止等の義務が残るため許可がない限りアルバイト等ができない反面,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間(裁判所法67条の2第1項)を経過している点で修習資金すら貸与してもらえませんから, 最高裁判所の罷免処分を争う実益はない気がします。

第1の4 司法修習生に関する規則第19条第2項の報告について

司法修習ハンドブックにも掲載されている,司法修習生に関する規則第19条第2項の報告について(平成19年6月28日付の司法研修所長通知)は以下のとおりです。
 
1 監督の委託を受けた司法修習生について,規則第19条第2項の規程により最高裁判所に対する報告をする場合には,あらかじめ当該司法修習生に対して次の事項を告げた上,弁明の機会を与えるものとする。ただし,当該司法修習生が所在不明又は心身の故障等により弁明することができないときは,この限りでない。
(1) 規則第18条第1号又は第2号に定める事由に該当する疑いのある事実関係
(2) 規則第19条第2項の規定による報告の対象とする旨
(3) 弁明書の提出先及び提出期限
2 規則第19条第2項の規定による報告をする際には,当該司法修習生が提出した弁明書その他の資料(1ただし書により弁明の機会を与えなかったときにあっては,弁明することができない事情を記載した文書)を併せて送付するものとする。
 
※ なお,集合修習中等において,司法修習生に規則第18条第1号又は第2号に当たる事由があると認め,司法研修所長が規則第19条第1項の規定により最高裁判所に報告する場合にも,上記と同様の弁明の機会が与えられる。

第2 司法修習生の欠席

○以下の記載は,ナンバリングを除き,「修習生活へのオリエンテーション」(平成24年11月)に書いてある内容を引用したものです。
○司法修習生の結婚事情については, 東洋経済オンラインの「楽じゃない?イマドキ弁護士の恋愛と結婚」が参考になります。

1 司法修習生には,休暇という概念がありません。これは,司法修習というものが労働の提供と本質的に異なっており,他人によって代替することができないことに由来するものです。このため,「土曜,日曜,祝日,12月29日から翌年1月3日まで」の日(以下「休日等」という。)以外の日に修習できない場合には,原則として,欠席として取り扱われることになります。

2 出席を要する日の場合
   カリキュラム上,出席を要するとされている日に出席しないときは,修習ができないものとして,欠席として取り扱われます。

3 自由研究日の場合
   「自由研究日」は,司法研修所長又は配属庁会の長が,休日等以外の日について,司法修習生が出席及び具体的な修習課題を行うことを要しないものとして定めた日であり,病気その他この日に修習できない事情があるときを除いて欠席として取り扱われません。
  自由研究日は,司法修習生の自主性を尊重して定められたものですから,自らの自覚と責任において修習の実を挙げるために使うべき日であり,休暇ではありません。
  なお,「自宅起案日」とは,指導担当者等が具体的な修習課題等を与え,司法修習生が当該日にその課題等を行うことを前提として,司法修習生が出席を要しないものとされる日をいい,当該課題等についての結果(起案等)を所定の日に提出する限り,自由研究日と同様に取り扱われますが,当該修習日は課題等を行うための日であるので,旅行は認められません。
  また,裁判所では,夏季期間に一定期間休廷することがありますが,司法修習生には前述の通り休暇という概念はありませんので,実務修習期間中に配属裁判部が休廷期間に入ったとしても,その期間,司法修習生に休暇が与えられるということはありません。このことは,検察庁や弁護士会で実務修習を受ける場合や,12月29日から翌年1月3日までを除く年末年始の場合などでも同様です。

4 欠席と修習終了の関係
   司法修習生がその修習を終了し,法曹資格を取得するためには,最高裁判所が定めた一定期間の修習を欠落なく終了すること及び考試に合格することが必要です(裁判所法67条1項)。したがって,1日でも欠席したときは,本来は,その理由を問わず,この修習期間に欠落を生じ,前者の要件を充足することができず,所定の修習期間で修習を終えることができないことになります。
  しかし,このとおりとすると,酷な事態が生ずることから,司法修習生が病気その他の正当な理由によって修習しなかった所定の日数(45日以内)は,これを修習した期間とみなすこととしています(司法修習生に関する規則6条)。
   したがって,正当な理由のある場合であっても,欠席の日数が所定の日数(45日以内)を超えた場合は,修習期間に欠落を生じることになります。

5 欠席と成績の関係
   欠席日数が,各実務修習又は集合修習の修習単位のうち修習を要する日の2分の1を超えた場合,その修習単位の成績は,原則として「不可」となります(「司法修習生の規律等について」第5の10)。

6 欠席と正当な理由
   修習を欠席する場合には,「欠席承認申請書」により,事前に承認を受けなければ成りません。欠席は,「正当な理由」によるものでなければ,承認されませんが,「正当な理由」の有無は,「一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律」18条及び19条の規定の趣旨を,司法修習生の地位,性質に適合する限度において参酌し,欠席を必要とする事由の程度と修習に影響を及ぼす支障の程度を比較考量して,その都度司法研修所長又は配属庁会の長が判断することになります。
  「正当な理由」があると認められる例としては,次に掲げる場合があります。
① 司法修習生が負傷又は疾病のため療養する必要があり,修習しないことがやむを得ないと認められる場合
② 選挙権の行使,出産,交通機関の事故等により修習しないことが真にやむを得ないと認められる場合
③ ②に掲げる以外の特別の事由(特別の事由は,国家公務員の特別休暇の例による。)又は欠席を必要とする事由がある場合で,かつ,修習に著しい支障がないと認められる場合

7 修習内容と欠席
   前項③の事由の場合,欠席を必要とする事由は同一であっても,修習内容によって欠席が承認されるか否かは違ってきます。次に掲げる①から③までは欠席承認についての目安ですが,これに該当すれば欠席が承認されるというわけではなく,あくまでも欠席を承認するか否かは,個別具体的な事案ごとに司法研修所長又は配属庁会の長が判断することになります。
① 選択型実務修習のうち,選択した全国プログラム及び個別修習プログラム等の修習の日の場合
  修習期間が短いこと,カリキュラムを自分で選択したものであること,民間機関等外部機関での研修もあり得ることから,正当な理由によるとして欠席が認められる場合は非常に少なくなります。
○ 例外的に認められる可能性のある例
  親族の葬儀,他に看病する者がいない近親者の看病の場合のほか,父母がそろって同伴を要する子の入学・入園試験及び入園(学)・卒園(業)式,本人の結婚式(参列者のために平日に結婚式を挙げなければならない特別の事由があり1日程度の欠席で済む場合などに限る。新婚旅行は含まれない。),友人の葬儀(本人との関係や通夜のみの参列の可否,修習内容,欠席日数などが勘案される。)など。
② 司法研修所における集合修習並びに分野別実務修習のうち,講義,見学その他の合同修習の日及び家庭裁判所における修習の日の場合
  他の修習によってこれを補うことが困難であることから,修習に著しい支障があると判断される場合が多くなります。
○ 例外的に認められる可能性のある例
  ①に掲げた例のほかに,親族の結婚式(本人との関係や結婚式への関与の度合い,修習内容,欠席日数などが勘案される。)及び官公署に対する届出(夜間・休日提出及び郵送が可能なもの等を除く。)などがあります。
③ ①,②以外の実務修習の場合
  他の日に修習することによってこれを補うことが可能であることも少なくないことから,①,②の場合よりは,正当な理由と認められる例が広がります。
○ 認められる例
  ①,②に掲げた例のほか,健康診断の受診,新婚旅行,友人の結婚式への参列,運転免許試験の受験(休日に受験可能な場合及び更新手続を除く。),就職活動のための欠席(日数については欠席の具体例⑧参照),資格試験の受験など。
○ 認められない例
  引越,運転免許証の更新,結婚準備,ボランティアのための欠席など

8 欠席の具体例
① 結婚等に伴う欠席
  土曜,日曜なども含む連続する5日間を限度として,欠席が認められます。結婚による欠席は,1階限りの取得で,分割することはできません。入籍又は結婚式などの早い方の日を基準(その時点で司法修習生であることが必要です。)とし,その日から4箇月稲井に限り認められます。ただし,4箇月の間に年末年始やゴールデンウィークなど長期の修習を要しない日が挟まる場合は,その期間内に旅行をすることが可能ですので,その前後の新婚旅行を理由とする欠席は認められないことがあります。
  結婚式を理由とする欠席は,集合修習中は,「修習内容と欠席」の②のとおり,原則として認められません。
  新婚旅行を理由とする欠席は,実務修習中は「修習内容と欠席」の③の場合以外は認められません。集合修習中の新婚旅行による欠席は認められません。
②   葬儀,服喪その他親族の死亡に伴い必要と認められる行事
   国歌公務員の特別休暇の例によると,忌引が認められる親族の範囲は,配偶者,父母,子,祖父母,孫,兄弟姉妹,おじ又はおば,父母の配偶者又は配偶者の父母,子の配偶者又は配偶者の子,祖父母の配偶者又は配偶者の祖父母,兄弟姉妹の配偶者又は配偶者の兄弟姉妹,おじ又はおばの配偶者とされています。司法修習生についてもその範囲は同様です。このほかに,いとこ,いとこの配偶者,いとこの子及び友人の葬儀参列については,社会的儀礼を欠くことのないよう,必要最低限の日数で欠席が認められることもあります。
  なお,法事等については原則として認められません。
③ 出産について
  司法修習生の産前,産後について欠席が認められる機関は,国歌公務員の特別休暇の例と基本的に同義ですが,「司法修習生の規律等について」第5の10の定めには,留意する必要があります。
④ 近親者の看病
  子どもや配偶者,同居の親族などであっても,他に看病する者がいない場合などに限られます。
⑤ ボランティア休暇
  認められません。
⑥ ドナー休暇
  認められます。
⑦ 健康診断
  年1,2回程度の健康診断の受診(人間ドック等)のための欠席は,認められます。「修習内容と欠席」の③の場合以外は認められません。
⑧ 就職活動
   弁護士事務所訪問等の就職活動のための欠席については,実務修習中に限り合計5日間までは認められます。遠方の就職先など交通事情を勘案しても8日間以上は認められません。欠席は「修習内容と欠席」の③の場合以外は認められません。

9 承認を得ない欠席
   欠席する場合は,「欠席承認申請書」により,事前に承認を得るのが原則です。緊急かつやむを得ない場合(急病等)には,事後に承認を得ることになりますが,この場合には,速やかに電話等により,その修習単位を担う修習事務担当者等への連絡が必要になります。すなわち,連絡があり,それが承認されるまでは無断欠席として非違行為の対象にもなる状態になっていることに留意してください。
  以上のとおり,遅刻や欠席の連絡は,単なるマナーの問題ではないことに注意してください。
  欠席に正当な理由がないとして承認が得られなかった場合には,前述の通り修習終了の要件である修習期間に欠落が生じることになります。承認を得られない欠席は,そのこと自体が規律違反として,非違行為となります。

第3 司法修習生の逮捕

1 第58期司法修習生の事例
(1) 平成16年12月13日,東京地裁における裁判修習中に女性用トイレに侵入してビデオカメラを設置したということで,平成17年1月5日,第58期司法修習生が建造物侵入罪の容疑で逮捕され,実名報道されました(外部ブログの「なんということでしょう!司法修習生逮捕:東京地裁の女子トイレ侵入,ビデオ設置」参照)。
(2) 外部HPの「修習生の盗撮被疑事件」によれば,当該司法修習生が盗撮機器の設置時間帯に遠く離れた埼玉県にいたというアリバイがあったことが釈放の決め手になったと当時,報道されたみたいです。
   そして,当該司法修習生は嫌疑不十分ということで起訴されませんでしたが,その時期,近藤裕之裁判官(「法務省出向中の裁判官の不祥事の取扱い」参照)は東京地裁判事でした。
 
2 第67期司法修習生の事例
(1)   平成26年5月13日午後6時半頃,神戸地裁配属の司法修習生が,神戸電鉄の普通電車内で,通路の向かい側に座っていた女性のスカートや足の写真を数枚,撮影したということで,兵庫県迷惑防止条例違反の疑いにより現行犯逮捕され,実名報道されました。
(2) 平成28年7月1日施行の改正兵庫県迷惑防止条例の条文ではありますが,同条例3条の2は,以下のとおりです(兵庫県警察HPの「「改正 兵庫県 迷惑防止条例」が平成28年7月1日から施行されます。」参照)。
   通路の向かい側に座っていた女性を撮影したとしても,「人の通常衣服で隠されている身体又は下着」を撮影することはできないと思われますから,これがなぜ兵庫県迷惑防止条例違反に該当したのかはよく分かりません。
  
 (卑わいな行為等の禁止) 
第3条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。  
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動  
(2) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置する行為 
2 何人も、集会所、事業所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、次に掲げる行為をしてはならない。  
(1) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を写真機等を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向ける行為  
(2) 前項第2号に掲げる行為 
3 何人も、正当な理由がないのに、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人を写真機等を用いて撮影し、撮影する目的で写真機等を向け、又は撮影する目的で写真機等を設置してはならない。

第4の1 司法修習生と民間労働者との比較1/2

○司法修習生は民間労働者と比べて色々な面で不利な取扱いを受けていますから,最高裁判所としては,司法修習生の労働者性を否定することを当然の前提にしていると思われます。
平成29年4月24日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁判所が司法修習生に対して負っている安全配慮義務の内容が分かる文書は存在しません。
 
1 採用時点
(1) 民間労働者の場合
ア 会社は,経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し,自己の営
業のために労働者を雇用するに当たり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこれを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由にこれを決定することができます(最高裁平成15年12月22日判決)。
   つまり,会社は採用の自由を有しますから,採用してもらえるかどうかは原則として会社次第となります。
イ 採用の自由については,法律上,以下の制限はあります。
① 雇用対策法10条(募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保)
→ 例外として,長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的とし,期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合,新卒者等に限定した募集及び採用を行うことができます(雇用対策法施行規則1条の3第1項1号)。
② 男女雇用機会均等法5条(性別を理由とする差別の禁止)
→ ちなみに,厚生労働省HPの「都道府県労働局雇用均等室における法施行状況について」に掲載されている「平成27年度都道府県労働局雇用均等室での法施行状況」によれば,第5条関係の労働者からの相談は,206件(25年度),196件(26年度),136件(27年度)と推移しており,第11条関係(セクハラ)の10分の1以下の相談件数です。
③ 障害者雇用促進法5条(事業主の責務)
④ 労働組合法7条(不当労働行為)1号
(2) 司法修習生の場合
   司法試験合格者は,一定の欠格事由に該当しない限り,性別・年齢等に関係なく司法修習生に採用してもらえます(裁判所法66条1項参照)。
 
2 休暇の有無

(1) 民間労働者の場合
   就職してから6ヶ月間継続して勤務し,全労働日の8割以上出勤した場合,10日以上の有給休暇をもらえます(労働基準法39条1項)し,年次有給休暇を取得したことについて,賃金の減額その他不利益な取扱いをされることはありません(労働基準法附則136条)。
(2) 司法修習生の場合
   休暇という概念がありませんから,正当な理由のない欠席は規律違反として非違行為となります。
 
3 病気等で働けない場合の取扱い
(1) 民間労働者(社会保険加入が前提です。以下同じ。)の場合
ア   病気等で働けない場合,就業規則の内容によっては6箇月から1年は休職できます。
   また,休職期間中,健康保険から1年6月を上限として傷病手当金(月給の3分の2)を支給してもらえます(協会けんぽHPの「病気やケガで会社を休んだとき」参照)。
イ 職場に復帰する際の配慮事項について,厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課が「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を作成しています。
ウ(ア) 社会保険への加入手続をしてもらっていなかった場合であっても,労働者としての実態があるのであれば,以下のとおり事後的に社会保険に加入できます(「休職期間中の社会保険及び税金」並びに「症状固定後の社会保険及び失業保険」参照)。
① 労災保険については労基署の職権による成立手続及び労災保険料の認定手続(労災保険法31条1項1号参照)を経ること
② 健康保険及び厚生年金については厚生労働大臣又は健康保険組合の職権による確認(健康保険法39条,51条1項)を経ること
③ 雇用保険についてはハローワークの職権による被保険者資格の確認(雇用保険法8条及び9条)を経ること
(イ) 労働者としての実態があるかどうかは,昭和60年12月19日付の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」に基づいて決定されます。
   在宅勤務者が労働者に該当するかどうかについては,厚生労働省HPの「在宅勤務者についての労働者性の判断について」が参考になります。
(2) 司法修習生の場合

ア   病気等で修習に参加できない場合,①トータルで45日以内の欠席しか認められていませんし,②導入修習,実務修習の各クール,集合修習,選択型実務修習といったそれぞれの修習単位について半分までの日数の欠席しか認めれていませんから,それ以上休む必要がある場合,いったん罷免された上で,次年度の司法修習生として再採用される必要があります。
   また,休んでいる期間中,修習
資金貸与金を支給してもらえるに過ぎません。
イ 再採用される際の配慮事項について,司法研修所が作成している手引きは特に存在しないと思います。
 
4 妊娠,出産及び育児に関する取扱い
(1) 民間労働者の場合
ア 民間労働者が妊娠・出産して育児をする場合,①健康保険から出産育児一時金42万円(協会けんぽHPの「子どもが生まれたとき」参照)の他,②出産日以前42日から出産日の翌日以降56日までの間,出産手当金(賃金日額の3分の2)を支給してもらえますし(協会けんぽHPの「出産手当金」参照),③雇用保険から育児休業給付金(180日目までは賃金日額の67%,181日目以降は賃金日額の50%)を支給してもらえます(大阪労働局HPの「育児休業給付について」参照)。
   また,①産前産後休暇(産前6週間・産後8週間)(労働基準法65条)を取ったり,②原則として1年間の育児休業をとったりできます(育児・介護休業法9条2項参照)し,③育児休業をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いを受けることはありません(育児・介護休業法10条)。
イ 平成29年1月1日,上司・同僚からの,妊娠・出産,育児休業,介護休業等を理由とする嫌がらせ等(いわゆるマタハラ・パワハラ等)を防止する措置を講じることが事業主に義務づけられました(リーフレット「育児・介護休業法が改正されます!-平成29年1月1日施行-」参照)。
ウ 育児・介護休業法については,厚生労働省HPの「育児・介護休業法について」が詳しいです。
(2)   司法修習生の場合
   司法修習生が妊娠・出産して育児をする場合,国民健康保険から出産育児一時金を支給してもらえるだけです(大阪市HPの「出産育児一時金」参照)。
   また,導入修習,集合修習といったそれぞれの修習単位について半分までの欠席しか認めれていません(民間労働者の場合,産後6週間の女性の就業が禁止されていることにつき労働基準法65条2項ただし書参照)から,いったん罷免された上で,次年度の司法修習生として再採用される必要があります。

5 最低賃金法との関係
(1) 研修医の場合
   臨床研修のプログラムに参加している研修医は労働基準法9条所定の労働者に該当しますから, 最低賃金法の適用があります(最高裁平成17年6月3日判決)。
(2) 司法修習生の場合
ア 最低賃金法が適用されない司法修習生の修習資金貸与制については,「司法修習生の修習資金貸与制」を参照して下さい。
イ   71期以降の司法修習生については,月額13万5000円の修習手当の創設が検討されています。
   ところで, 平成28年10月1日発効の,埼玉県最低賃金は時給845円です(埼玉労働局HPの「埼玉県の最低賃金」参照)。
   そのため,埼玉県において最低賃金で1日8時間働いた場合の30日分の給料は,845円×40時間×30日/7日=14万4857円となります。
   よって,司法修習が労働に該当するとした場合,月額13万5000円の修習手当は,埼玉県の最低賃金を下回ることとなります。
 
6 労働時間等の管理の有無
(1) 民間労働者の場合
ア(ア)  平成12年11月30日付の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」に基づき,使用者は,労働時間を適正に管理するため,労働者の労働日ごとの士業・終業時刻を確認し,これを記録する必要がありますし,原則として,タイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として始業・終業時刻を確認し,記録する必要があります。
   また,労働時間の記録に関する書類については,労働基準法109条に基づき3年間保存する必要があります。
(イ) 平成29年1月20日付の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では,従前の基準では明確にされていなかった労働時間について以下の説明がなされています。
   労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
   ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。
(中略)
ウ   参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
イ 外部HPの「労働時間適正把握対照表」を見れば,平成12年の基準と平成29年のガイドラインの違いがよく分かります。

(2) 司法修習生の場合 
ア    登庁又は出勤の状況は出勤簿等によって把握され,何らかの理由で登庁又は出勤が遅れた場合,遅参届を提出する必要がありますものの,修習時間を適切に管理するためのものではないと思います。
イ  司法修習は,法曹三者となるために参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講に当たると思いますが,労働時間には該当しません。

第4の2 司法修習生と民間労働者との比較2/2(業務が原因で心の病を発症した場合の取扱い)

1 民間労働者の場合
(1) 総論
ア   厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室が作成した「精神障害の労災認定実務要領」に基づき,業務が原因で心の病を発症したかどうかについて労働基準監督署が詳細な調査を実施してくれます(厚生労働省HPの「精神障害の労災補償について」参照)。
   そして,業務が原因で心の病を発症した場合,労災保険に基づき,療養補償給付,休業補償給付,障害補償給付等を支給してもらえます(厚生労働省HPの「労災補償関係リーフレット等一覧」参照)。
イ 現在の認定基準によれば,最高裁平成12年3月24日判決が取り扱った事案(個人的には,当該事案が過労自殺に該当することは当然であると感じています。)より遥かに心理的負荷が軽いものであっても労災認定されると感じています。
   例えば,飲酒検知の誤作動でバスの運転手が自殺した事案について,東京地裁平成27年2月25日判決は業務災害に該当すると認定しました(外部HPの「「飲酒検知の誤作動で自殺」は労災」参照)。
(2) 労災認定の対象となる精神障害の発症原因等
ア 労災認定の対象となる精神障害の発症原因のうち,心理的負荷の強度が強いものの例としては,以下のものがありますところ,これらの事由がある場合,労災認定される可能性が高いです。
① 重度の病気やケガをした
② 業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした
③ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
④ 退職を強要された
⑤ (ひどい)嫌がらせ,いじめ又は暴行を受けた
イ 平成11年9月14日付の労働省労働基準局長通知により,「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない。」とされています。
   そのため,この場合,「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。」と定める労災保険法12条の2の2第1項は適用されません。
(3) 労災認定してくれなかった場合の不服申立方法等
ア 労働基準監督署が労災認定してくれなかった場合,労働保険審査官及び労働保険審査会法に基づき,都道府県労働局労災保険審査官に対する審査請求(厚生労働省HPの「労災保険審査請求制度」参照)及び厚生労働省労働保険審査会に対する再審査請求(厚生労働省HPの「労働保険審査会」参照)をすることができます。
イ 都道府県労働局労災保険審査官による審査請求が認められなかった場合,再審査請求を経ずに,労災保険法に基づく保険給付の不支給決定取消訴訟を提起できます(労災保険法40条参照)。
   また,都道府県労働局労災保険審査官が,審査請求があった日から3ヶ月以内に裁決をしない場合も同様に取消訴訟を提起できます(行政不服審査法8条2項1号。なお,最高裁平成7年7月6日判決参照)。
   ただし,行政訴訟が提起された場合,労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条3項各号所定の一定規模以上の事業である会社は,労働基準監督署長を補助するため訴訟に参加することができます(最高裁平成13年2月22日決定)。
ウ 27年度労災保険審査関係統計表によれば,27年度の場合,業務上外の認定に争いがあるものに関する846件の決定のうち,棄却が790件,取消が30件,却下が26件でした。
(4) 労基署による労災認定は1億円前後の損害賠償責任の発生と直結していること等
ア 万が一,職場の同僚等が業務に関連して自殺した場合,労基署による労災認定は1億円前後の損害賠償責任の発生と直結していますし,死亡慰謝料(2000万円から2800万円ぐらいです。)に相当する部分は労災から支給されません(外部HPの「労働紛争の予防」参照)。
   そのため,業務が原因で社員の心の病が発生することがないよう,採用の自由に基づき適切な人材を採用するとともに,適材適所を心がける必要があります(健康診断の結果についての主治医又は産業医からの意見聴取につき労働安全衛生法66条の4,健康診断実施後の措置につき労働安全衛生法66条の5参照)。
   また,労働者が疾病のためその命じられた義務のうち一部の労務の提供ができなくなったことから直ちに債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできない(最高裁平成10年4月9日判決参照)ものの,うつ病の再発率は1年以内が30%,5年以内が40~60%であること(外部HPの「うつ病」参照)にかんがみ,休職中の労働者の復職を認めるかどうかは慎重に判断する必要があります(外部HPの「【産業医が教える】人事が復職を判断できる5つの基準」が参考になります。)。
   さらに,万が一,職場の同僚等が自殺してしまった場合,①業務の過重性等に関する事業場関係者の供述内容が労災認定に重大な影響を与えること,②会社に不利な供述の内容が供述調書となった場合,当該供述調書を将来の裁判で訂正することは非常に困難である場合があるところ,会社の信用失墜行為は就業規則に基づく懲戒事由となる場合があること等にかんがみ,労働基準監督署が正確な判断をすることができるよう,弁護士と相談しつつ,労働基準監督署に対して十二分に事情説明をする必要があります(事業主の意見申出につき労災保険法施行規則23条の2)。
イ(ア) 労働基準監督署の調査において虚偽の説明等をした場合,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(労災保険法51条2号・48条)。
   ただし,平成26年8月8日付の厚生労働大臣の行政文書不開示決定通知書によれば,同日時点で,労災保険法51条違反の罪について司法処分がされた件数が全国の労働局ごとに分かる文書は存在しませんから,実際の適用状況は不明です。
(イ)   政府統計の総合窓口に掲載されている平成27年度検察統計年報(バックナンバーにつき法務省HPの「検察統計統計表」参照)の45表「15-00-45 罪名別 既済となった事件の被疑者の既済事由及び性別・法人別人員 」によれば,平成27年の偽証罪の処理状況は,総数が100件,起訴が1件,起訴猶予が6件,起訴猶予以外の不起訴が93件です。
   そして,労災保険法51条違反の罪は,3月以上10年以下の懲役刑が定められている偽証罪(刑法169条)よりも遙かに法定刑が軽いですから,刑事罰の対象となった件数は偽証罪よりも少ないかも知れません。
ウ 労働基準監督署による立入検査及び供述聴取時の弁護士の立ち会いが認められているかどうかは不明です。
   ただし,「独占禁止法審査手続に関する指針」(平成27年12月25日公表)では,立入検査における弁護士の立ち会いは認められているものの,供述聴取時の弁護士等の立ち会いは認められていません。
エ 東芝事件に関する最高裁平成26年3月24日判決では,労働者に過重な業務によって鬱病が発症し増悪した場合において,一定の事情の下では,使用者の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償の額を定めるに当たり,当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺をすることはできないとされています。
オ 49期の石村智京都地裁判事が執筆した「労災民事訴訟に関する諸問題について」(-過労自殺に関する注意義務違反,安全配慮義務違反と相当因果関係を中心として-)を掲載している判例タイムズ1425号(平成28年7月25日発売)45頁には以下の記載があります。
   客観的業務過重性が認められる場合には,業務の過重性についての予見可能性と労働者の心身健康を損なう危険についての(抽象的)予見可能性さえあれば(使用者側は,客観的にみて過重な業務を課しているのであるから,通常は,これが否定されることはない。),義務違反及び相当因果関係が肯定される関係にあり,その意味で,この場合においては,精神障害の発症や自殺についての予見がないとの使用者側の主張については,ほぼ失当に近いことになる。しかも,電通事件最判や東芝事件最判の判示によれば,当事者側の事情が過失相殺ないしは素因減額とされる場面はかなり限定され,その適用範囲が審理の中心となるということになろう。
カ 最高裁平成13年2月22日決定は,労災保険給付の不支給取消請求訴訟における業務起因性についての判断は判決理由中の判断であって,当該訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは,審判の対象及び内容を異にすると判示していますものの,現在の訴訟実務は全く異なる気がします。
(5) 時間外労働時間数別に見た精神障害の労災認定状況

ア   精神障害が労災認定された件数(自殺につき,自殺未遂を含む。)は,時間外労働時間数別に見れば以下のとおりですから,時間外労働時間数が少ないというだけの理由で精神障害の労災認定が否定されるわけでは全くありません(厚生労働省HPの「平成27年度「過労死等の労災補償状況」を公表」(平成28年6月24日付)の別添資料2)。
① 平成26年度
20時間未満:118件(うち自殺は7件)
20時間以上~40時間未満:37件(うち自殺は9件)
40時間以上~60時間未満:34件(うち自殺は11件)
60時間以上~80時間未満:18件(うち自殺は2件)
80時間以上~100時間未満:27件(うち自殺は4件)
100時間以上~120時間未満:50件(うち自殺は12件)
120時間以上~140時間未満:36件(うち自殺は6件)
140時間以上~160時間未満:21件(うち自殺は0件)
160時間以上:67件(うち自殺は4件)
その他:89件(うち自殺は35件)
→ 決定理由として100件を超えるものは,「悲惨な事故や災害の体験,目撃をした」,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」,「上司とのトラブルがあった」であり,「1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った」は89件(うち自殺は8件)だけです。
② 平成27年度
20時間未満:86件(うち自殺は5件)
20時間以上~40時間未満:50件(うち自殺は24件)
40時間以上~60時間未満:46件(うち自殺は10件)
60時間以上~80時間未満:20件(うち自殺は3件)
80時間以上~100時間未満:20件(うち自殺は4件)
100時間以上~120時間未満:45件(うち自殺は8件)
120時間以上~140時間未満:40件(うち自殺は3件)
140時間以上~160時間未満:22件(うち自殺は3件)
160時間以上:65件(うち自殺は11件)
その他:79件(うち自殺は28件)
→ 決定理由として100件を超えるものは,「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」,「上司とのトラブルがあった」であり,「1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った」は55件(うち自殺は7件)だけです。
イ 過労死が労災認定された事案のうち,時間外労働時間数が45時間以上~60時間未満の件数は,平成26年度が0件,平成27年度が1件(うち死亡は1件)であり,60時間以上~80時間未満は平成26年度が20件(うち死亡は10件),平成27年度が11件(うち死亡は4件)です。
   そのため,時間外労働時間数が労災認定に与える影響は,過労自殺よりも過労死の方が遙かに大きいです(厚生労働省HPの「平成27年度「過労死等の労災補償状況」を公表」(平成28年6月24日付)の別添資料1)。
(6) 過労自殺案件における労災認定は会社の倒産に直結する場合があること

ア   職場の同僚等の自殺に関して労災認定があった場合において,任意労災に加入していない勤務先(任意労災につき,外部HPの「労災上乗せ保険ナビ」参照)が1億円前後のお金を支払う余裕がないとき,遺族感情次第では数年後に勤務先が倒産する可能性が高いですから,転職活動を始めた方がいいかもしれません。
   また,大阪高裁平成24年11月29日判決には,「社会的には,脳心疾患に係る死亡事案で労災認定がされたという事実だけで,特段の留保を付さず「過労死」あるいは「ブラック企業」という否定的評価をもって,そのような企業への就職を避けるべきであるという言説が紹介されている」と書いてあることにも留意した方がいいと思います。
イ 精神疾患等の公務上災害の認定指針(平成20年4月1日付の人事院事務総局職員福祉局長の通知)によれば,公務災害の場合,精神科の受診歴がない人が自殺したとき,本人の言動や極度の心身の疲弊等から,精神疾患に罹患していた蓋然性が高い場合に限り,自殺が公務災害に該当することとなります。
   しかし,精神障害の労災認定の場合,精神科の受診歴がないことが公務災害の場合ほど認定に不利になるわけではありません。
ウ   心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付の厚生労働省労働基準局長通達)により,判断が難しい事案のみ医師の意見が必要とされるに過ぎませんし,業務以外の要因調査は簡素化されるようになりました(外部HPの「心理的負荷による精神障害の認定基準」参照)。
   そのため,精神科への通院歴が全くない人が自殺した場合,会社としては,自殺の本当の原因が全く分からない状態で労災認定,ひいては1億円を超える損害賠償責任を負担させられるリスクがあるわけですから,まじめに働いている従業員の雇用を確保するためにも,従業員のメンタルヘルスには厳重に注意する必要があります。
エ 労働基準監督署による労災認定を待つまでもなく過労自殺が労災認定されそうな事案の場合,会社としては,労災認定に協力し,すべての法定相続人に対してそれなりの死亡慰謝料を支払う代わりに,その余の損害賠償責任は免除してもらうという趣旨の示談を締結するように努力するしかないと思われます。
(7) 現在の判例理論だけで判断すべきではないこと

   ①従業員の精神障害に関して会社の安全配慮義務の水準は年々高くなっていると感じますし,②平成26年11月1日,過労死等防止対策推進法が施行されましたし,③平成27年12月25日発生の電通女性社員過労自殺事件に対する世間の反応のように,過労自殺に対する世間の風当たりも年々厳しくなっていると感じますし,③東芝事件に関する最高裁平成26年3月24日判決により過失相殺が適用される範囲はより一層狭くなりました。
   また,今後も引き続き会社の安全配慮義務の水準が高くなっていく可能性がありますから,従業員の精神障害に関して会社の損害賠償責任が認められるかどうかについては,現在の判例理論に照らして判断するだけでは不正確であると思います。
(8) 日本産業精神保健学会の意見
   日本産業精神保健学会が平成18年12月20日に公表した「「過労自殺」を巡る精神医学上の問題に係る見解」17頁には,「意見書が指摘するようなケース(注:軽症うつ病が業務によるストレスを原因により中等症,重症うつ病に移行し,自殺した場合)については,精神健康上問題のある労働者に対して,企業は,家族,上司,同僚等周囲の理解・協力の下にメンタルヘルス対策を適切に実施していくことが求められているのであり,このようなケースを労災補償の問題として提起することは,精神障害者の雇用の面からも慎重でなければならないと考える。」と書いてあります。
 
2 司法修習生の場合
(1) 国家公務員災害補償の対象となる可能性があること等
ア 司法修習生には国家公務員災害補償法の適用があります(裁判所HPの「修習資金貸与FAQ~その他 貸与制に関連する事項~」)。
   そのため,司法修習が原因で心の病を発症したと最高裁判所事務総長(国家公務員災害補償法3条の実施機関です。)に認定してもらえた場合,裁判官及び裁判所職員の場合と同様に,同法に基づく補償(人事院HPの「国家公務員災害補償制度の仕組み」参照)があると思います。
イ 司法修習生に対する不合理な罷免は退職の強要に該当する可能性がある気がします。
(2) 公務災害の認定してくれなかった場合の不服申立方法等
ア   公務災害の認定に関する最高裁判所事務総長の措置に不服がある場合,最高裁判所に対して審査の申立てをすることができます。
   この場合,最高裁判所は,災害補償審査委員会の審理に付し,同委員会が作成した調書に基づき,審査の申立てを棄却するかどうかを判定します(人事院規則13-3(災害補償の実施に関する審査の申立て等)参照)。
イ ①平成15年3月3日に自殺した大阪高裁の裁判官の場合,公務災害が認められていませんし(外部HPの「「ある裁判官の自殺」に思う」参照),②42期の花村良一民事裁判上席教官は,平成28年9月29日に死亡しましたところ,死亡した月の出勤状況が分かる文書は存在しないことになっています平成28年11月4日付の司法行政文書不開示通知書平成28年12月2日付の最高裁判所事務総長の理由説明書及び平成28年度(最情)答申第42号(平成29年1月26日答申)参照)から,最高裁判所事務総長による認定はあまり期待できないかも知れません。
(3) 過失相殺なしの損害賠償責任と直結しているかもしれないこと
   精神障害の場合,業務災害の認定は安全配慮義務違反の認定,ひいては過失相殺なしの損害賠償責任に直結しています。
   そのため,裁判所職員の場合も同様に,公務災害の認定は裁判所の安全配慮義務違反の認定,ひいては過失相殺なしの損害賠償責任と直結しているかもしれません(明確な裁判例は確認できていません。)。
(4) 損害賠償請求訴訟に関する審理の経過及び予定は逐次,最高裁判所事務総局に報告されること
   仮に司法研修所の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟を提起した場合,「裁判所職員の事件処理上の違法行為を理由とする国家賠償請求事件及び告知事件の報告について」(平成16年7月1日付の最高裁判所民事局長,刑事局長,行政局長及び家庭局長通達)に基づき,審理の経過及び予定が逐次,最高裁判所事務総局に報告されます。
(5) 裁判所の責任者
   裁判所職員健康安全管理規程2条及び別表第一によれば,最高裁判所における健康安全管理総括者は事務総局人事局長(保健に係るもの)及び事務総局経理局長(安全保持に係るもの)であり,同規程3条及び別表第二によれば,司法研修所における健康管理者は司法研修所事務局総務課長であり,安全管理者は司法研修所事務局経理課長です。
(6) 公務災害の認定がされた場合の影響
   司法修習生の心の病に関して公務災害が認定された場合,過失相殺なしの損害賠償責任に直結し,最高裁判所事務総局人事局長等の責任問題に発展するかも知れませんが,他の司法修習生に特に不利益が発生することはないと思います。
(7) 自殺等の状況
ア 平成17年7月6日,鳥取地裁配属の59期司法修習生がマンションの13階から飛び降り自殺しました(2ちゃんねるの「【社会】27歳司法修習生,13階から飛び降り自殺・鳥取」参照)。
   そのため,司法修習生が心の病を発症する可能性は否定できません。
イ ハンドルネームが「黒猫」となっている55期の男性弁護士の場合,司法修習生の時代にうつ病を発症し,1年間,修習を休んだそうです(外部HPの「自分の昔のこと,その他いろいろ」参照)。
ウ 平成18年12月11日,大阪地検総務部の指導係検事が割腹自殺の未遂事件を起こしました(外部ブログの「大阪地検の検事が割腹自殺未遂?修習生の指導担当」参照)。
エ 弁護士の自殺者数は,13人(18年),9人(19年),8人(20年),10人(21年),13人(22年),8人(23年),13人(24年),8人(25年),9人(26年),7人(27年),10人(28年)と推移しています(「精神障害の労災認定実務要領」の第5章参照)。
   イソ弁が労働者に該当する場合(東弁リブラ平成17年4月号の「私って労働者?」参照),労基署の職権による成立手続及び労災保険料の認定手続を経ることで事後的に労災保険に加入できますから,労基署の過労自殺認定を通じてボス弁に1億円前後の損害賠償責任が発生するかも知れませんし,労災保険の費用徴収制度(労災保険法31条1項参照)に基づき,労災保険の給付に要した費用の100%又は40%を労基署から請求されるかも知れません(厚生労働省リーフレットの「労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されます」参照)から,弁護士法人であれば,無限連帯責任を負う社員弁護士(弁護士法30条の15第1項参照)の破産につながるかも知れません。

第5 労働基準法1条2項及び最高裁判所長官「新年のことば」との比較

1 労働基準法1条2項
   この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
 
2   平成29年1月1日付の最高裁判所長官「新年のことば」
   昨年4月に,ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書及び最高裁判所裁判官会議談話が公表され,かつての開廷場所指定の運用が違法と判断されたことは御承知のとおりです。報告書は,司法行政事務に携わる職員に対し,人権に対する鋭敏な感覚を持って事務処理を行うよう求めていますが,このことは裁判所で働く全ての裁判官及び職員に対し向けられるべきものでもあります。長らく続けられてきた事務処理であっても,それが法令等に則ったものであるかを再確認する意識を失わず,併せて社会通念上是認されるものであるかといった観点にも目配りをして,改めるべきは躊躇なく見直すという姿勢が求められます。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
 
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。