弁護士の懲戒

第0 目次

第1  弁護士に対する懲戒制度の概要
第2  弁護士は単位弁護士会及び日弁連の会則等を守る必要があること
第3  弁護士の懲戒事由
第4  会務活動に関する弁護士の守秘義務
第5  非弁護士との提携の禁止
第6  非弁護士との提携の取締り
第7  戒告,業務停止,退会命令及び除名
第8  大阪弁護士会の懲戒手続
第9  日弁連の懲戒手続
第10  弁護士の懲戒処分と取消訴訟
第11  弁護士に対する不当な懲戒請求をした場合の責任
第12  懲戒手続の除斥期間(平成29年8月12日追加
第13  東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続
第14  弁護士の懲戒請求事案集計

* 個別の弁護士の懲戒情報については,①弁護士懲戒処分検索センターの「弁護士懲戒情報」,及び②弁護士自治を考える会HPの「弁護士懲戒処分の要旨」に載っています。

第1 弁護士に対する懲戒制度の概要

1 日弁連HPの「弁護士の懲戒手続の流れ」を見れば,懲戒手続の流れが分かります。

2(1) 弁護士に対する懲戒は,戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名の4種類です(弁護士法57条1項)。
(2) 弁護士法人に対する懲戒は,戒告,2年以内の業務停止,退会命令及び除名の4種類です(弁護士法57条2項)。

3(1) 何人も,弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由(過去3年以内のものに限られることにつき弁護士法63条)があると思料するときは,その事由の説明を添えて,その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会(例えば,大阪弁護士会)にこれを懲戒することを求めることができます(弁護士法58条1項)。
(2)   私は,懲戒請求の対象となる弁護士に懲戒の事由が存することが一見して明らかでない限り,懲戒請求事件の代理人は受任しないことにしています。

第2 弁護士は単位弁護士会及び日弁連の会則等を守る必要があること

1(1) すべての弁護士及び弁護士法人は,いずれかの弁護士会及び日弁連に所属する必要がある(弁護士法36条1項,47条)ため,弁護士会及び日弁連はいわゆる強制加入団体であります。
(2)   弁護士会及び日弁連が強制加入団体であることは,憲法22条に違反しません(最高裁平成4年7月9日判決)。

2 弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則,会規及び規則を守る必要があります(弁護士法22条,日弁連会則29条1項,弁護士職務基本規程78条)。

3 弁護士法人は,平成13年6月8日法律第41号(平成14年4月1日施行)による改正後の弁護士法30条の2以下に基づき設立されるようになったものです。
   ちなみに,弁護士法人は,破産手続開始の原因との関係では合名会社としての取扱いを受けます(弁護士法30条の30第4項)から,債務超過は破産手続開始の原因とはなりません(破産法16条2項)。

4 弁護士会及び日弁連の会則というのは,社団法人にとっての定款みたいなものです(弁護士法33条,46条参照)。

5(1) ①所属弁護士会の会則及び会規は総会の決議により(会則につき弁護士法39条,会規につき大阪弁護士会会則6条2項及び34条1号),②所属弁護士会の規則は常議員会の決議により定められ,又は変更されます(大阪弁護士会会則6条3項及び57条1号)。
(2) ①日弁連の会則及び会規は総会の決議により(会則につき弁護士法50条・39条,会規につき日弁連会則6条2項及び34条2号),②日弁連の規則は理事会の決議により定められ,又は変更されます(日弁連会則6条2項及び59条3号)。

第3 弁護士の懲戒事由

1 総論
(1) 弁護士は,弁護士法又は所属弁護士会若しくは日弁連の会則に違反し,所属弁護士会の秩序又は信用を害し,その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときは,懲戒を受けます(弁護士法56条1項)。
(2) 「この規程〔注:弁護士職務基本規程のこと。〕は,弁護士の職務の多様性と個別性にかんがみ,その自由と独立を不当に侵すことのないよう,実質的に解釈し適用しなければならない。」(弁護士職務基本規程82条1項前段)とされています。
   そのため,弁護士職務基本規程の条項に形式的に違反する行為のすべてが直ちに懲戒の事由と判断されるのではなく,「品位を失うべき非行」(弁護士法56条1項)と同等の評価を受けるなどの視点から,事案に即した実質的な判断がなされることとなります。
(3) 「自由と独立」には,①権力からの自由と独立,②依頼者からの自由と独立,及び③他の弁護士との関係における自由と独立の三つの要素を含みます(弁護士職務基本規程2条参照)。
(4) 弁護士職務基本規程には,倫理規定・努力義務の規定と,行為規範・義務規定とが混在しており,その区別が必ずしも判然としません。
   そのため,弁護士職務基本規程82条2項で,倫理規定・努力義務の規定に当たる条文が個別に列挙されています。
(5) 行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為であっても,これを処罰することは憲法39条に違反しません(最高裁平成8年11月18日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年4月26日判決最高裁大法廷昭和33年5月28日判決最高裁大法廷昭和49年5月29日判決参照)。
(6) 弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会に問題があったとしても,その責任は,その行為を行った弁護士会にあり,その申出をした弁護士には,故意に虚偽の事実を記載するなど弁護士会の判断を誤らせたというような事実が認められない限り,その照会申出行為は懲戒の対象とはならないと解されています(平成23年2月1日付の日弁連の懲戒処分の公告(ただし,日弁連懲戒委員会委員15名中7名の反対意見あり)参照)。
(7) 弁護士の訴訟行為が懲戒事由となるかどうかについては,弁護士自治を考える会ブログの「根拠のない訴訟提起・答弁主張をして弁護士が懲戒処分になった例」が参考になります。

2 弁護士会の判断と最高裁判所の判断が一致しなかった事例
(1)ア 大阪弁護士会に所属し,タレント活動もしていた橋下徹弁護士が,平成19年5月27日に放送された読売テレビ放送株式会社制作に係る「たかじんのそこまで言って委員会」と題する娯楽性の高いテレビのトーク番組において,光市母子殺害事件の弁護団を構成する弁護人に対する懲戒請求を呼びかけた行為について,
   大阪弁護士会は,平成22年9月17日,意見論評の域を逸脱すること,刑事事件及び弁護士会の懲戒請求について誤った認識を与えたこと等を理由に,2ヶ月間の業務停止処分としました。
   しかし,最高裁平成23年7月15日判決は,原審である広島高裁平成21年7月2日判決を破棄した上で,橋下徹弁護士の発言は不法行為法上違法とはいえないと判断しました。
   このように,弁護士会の判断と最高裁判所の判断が一致しない事例は存在します。
イ ちなみに,光市母子殺害事件については,最高裁平成24年2月20日決定が,死刑判決を下した広島高裁平成20年4月22日判決を支持しました。
(2) 最高裁平成23年7月15日判決は,一般論として以下のとおり判示しています。
   刑事事件における弁護人の弁護活動は,被告人の言い分を無視して行うことができないことをその本質とするものであって,被告人の言い分や弁護人との接見内容等を知ることができない場合には,憶測等により当該弁護活動を論難することには十分に慎重でなければならない。

3 弁護士が代理人として懲戒手続に関与した場合に関する日弁連の裁決例
   弁護士は,依頼者から,相手方が依頼者の名誉・信用を毀損する内容の虚偽の事実を報道機関に告げる等して自己の信用等を毀損しようとしているという相談があり,このような相手方の信用毀損行為をやめさせるようにしてほしいとの相談依頼があった場合に,依頼者の主張どおりであれば依頼者の権利が侵害されると考えられ,その主張がなりたたないものであるとか,事実に反していることが明らか等の事情で受任することが弁護士の真実義務に反すると考えられない限り,これを受任して,依頼者の依頼の目的を達成すべく行動することは認められています。
   また,依頼者の相手方が,弁護士として依頼者の権利,信用等を不当に侵害する行為をなし,それが弁護士としての品位を害する行為であるという理由で,依頼者が相手方に対する弁護士会懲戒の申立をしたいとして,同手続代理を対象弁護士に依頼してきた場合に,依頼者の主張どおりであれば相手方の当該行為は弁護士としての品位を害する行為として弁護士懲戒の対象になりうると判断されうる場合に,これを受任してその代理人として懲戒申立手続に関与することも,特に問題とされることではありません(平成23年10月18日付の日弁連綱紀審査会の議決が是認するところの,宮崎県弁護士会綱紀委員会の議決)。

4 弁護士会の懲戒処分が違法となる場合
   弁護士に対する所属弁護士会及び日弁連による懲戒の制度は,弁護士会の自主性や自律性を重んじ,弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられたものであります。
    また,懲戒の可否,程度等の判断においては,懲戒事由の内容,被害の有無や程度,これに対する社会的評価,被処分者に与える影響,弁護士の使命の重要性,職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要です。
   そのため,ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,また,該当するとした場合に懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法となります(最高裁平成18年9月14日判決)。

5 弁護士自治を考える会HP
   弁護士自治を考える会HPには,平成29年8月16日現在,以下の類型の懲戒処分例が載っています。
   暴言・心ない言葉事件放置横領・着服痴漢・盗撮他守秘義務違反成年後見人相続事件業務停止中の業務非弁提携医療過誤事件弁護士報酬国選弁護人判決文・証拠・委任状偽造依頼人を裏切った弁護士会費滞納意思確認なし所得隠し自力救済依頼者から借金根拠のない主張職務上請求双方代理接見等もみ消し工作裁判資料等返却せず公設事務所着手金飲酒関係

第4 会務活動に関する弁護士の守秘義務

1 弁護士法23条及び弁護士職務基本規程23条の「職務上知り得た」とは,弁護士がその職務を行うについて知り得たという意味であり,弁護士が弁護士法3条の依頼者から依頼を受け,訴訟事件等その他一般的法律事務を処理する上で知り得た事項についての守秘義務が課せられ,また,将来依頼を受ける予定で知り得た事項にも及びます。
   しかし,他方,そのような弁護士としての一般的法律事務を行うものではない,例えば,弁護士会の会務を行う際に知り得た事実については弁護士としての守秘義務は及びません(大阪高裁平成19年2月28日判決)。
   ただし,会務を行う際に知り得た事実であっても,当該委員会にかかる会規等に秘密保持義務が定められていれば,当該会規等の違反となり,それが弁護士の非行に当たる場合,懲戒処分の対象となります。

2 大阪弁護士会の会務活動に関する守秘義務を定める条文としては,以下のものがあります。
① 大阪弁護士会資格審査手続規程24条
→ 資格審査会の会長,委員,予備委員並びに大阪弁護士会の役員及び職員は,審査会の審査に関し職務上知ることのできた秘密を漏らしてはなりません。
② 大阪弁護士会綱紀調査手続規程10条
→ 綱紀委員会の委員,予備委員,鑑定人及び調査員並びに大阪弁護士会の会長,副会長及び職員は,綱紀委員会の調査及び議決に関し,職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
③ 大阪弁護士会懲戒手続規程8条
→ 懲戒委員会の委員,予備委員,鑑定人及び調査員並びに大阪弁護士会の会長,副会長及び職員は,綱紀委員会の調査及び議決に関し,職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
④ 大阪弁護士会紛議調停手続規程21条
→ 紛議調停委員会の委員長・副委員長又は委員並びに大阪弁護士会の会長・副会長及び職員は調停又は議事について,職務上知ることができた秘密を漏らしてはなりません。
⑤ 弁護士法第二十三条の二に基づく照会に係る嘱託に関する規則6条
→ 23条嘱託は,関与した案件その他について職務上知り得た秘密を漏らしてはなりません。
⑥ 大阪弁護士会企画調査室規則7条
→ 企画調査室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑦ 大阪弁護士会法規室規則6条
→ 法規室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑧ 大阪弁護士会人権救済調査室規則7条
→ 人権救済調査室嘱託は,調査に関して知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。
⑨ 大阪弁護士会広報室規則7条
→ 広報室嘱託は,職務上知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。

3 ①大阪弁護士会委員会規程及び②大阪弁護士会特別委嘱委員に関する規程には,委員会活動に関する守秘義務を定めた条文はありません。
  ただし,人権擁護委員会規則19条2項は,委員としての職務上知ることのできた秘密を漏らすことを禁じています。

4 日弁連の特別委員会の場合,日弁連会長の承認を経なければ,委員会の議事の内容に関して外部に発表,その他情報を漏らしてはなりません(特別委員会規則12条)。

第5 非弁護士との提携の禁止

1 総論
(1) 「弁護士は,弁護士法第72条から第74条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け,これらの者を利用し,又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。」(弁護士職務基本規程11条。なお,同趣旨の規定につき大阪弁護士会会則108条2項)とされています。
   そして,禁止される提携の対象は,弁護士法27条と異なり,①弁護士法72条ないし74条の規定に違反する者に限らず,「違反すると疑うに足りる相当な理由のある者」にまで広げられていますし,②「事件の周旋」に限らず,「依頼者の紹介」にまで広げられています。
(2) 自己の名義を利用させるとは,「弁護士某」という名義の他,氏名だけの利用も含まれますし,「○○法律事務所」という標示についても名義の利用に当たる場合があります。
例としては,大量に処理する報告書,内容証明郵便等に,弁護士の氏名を記載し,更に弁護士の印鑑を弁護士でない者に預けて押捺させる場合があります。

2 弁護士法72条から74条までの規定に違反している者の内容
(1) 弁護士法72条から74条までの規定に違反している者の内容は以下のとおりであり,①ないし③に該当する場合,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられ(弁護士法77条),④ないし⑥に該当する場合,100万円以下の罰金に処せられます(弁護士法77条の2)。
① 弁護士又は弁護士法人でないのに,報酬を得る目的で,業として,訴訟事件その他一般の法律事件に関して,鑑定,代理,和解等の法律事務を取り扱う者(弁護士法72条本文前段違反)
② 弁護士又は弁護士法人でないのに,報酬を得る目的で,業として,法律事件に関する法律事務の取扱いを周旋する者(弁護士法72条本文後段違反)
③ 他人の権利を譲り受けて,訴訟等の手段によって,その権利を実行することを業とする者(弁護士法73条違反)
④ 弁護士又は弁護士法人でないのに,弁護士又は法律事務所の標示又は記載をする者(弁護士法74条1項違反)
⑤ 弁護士又は弁護士法人でないのに,利益を得る目的で,法律相談その他法律事務を取り扱うことを標示又は記載した者(弁護士法74条2項違反)
⑥ 弁護士法人でないのに,その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いた者(弁護士法74条3項違反)
(2) 平成13年6月8日法律第41号(平成14年4月1日施行)に基づき弁護士法人の制度が導入されたことに伴い,弁護士法人を主体とする犯罪(弁護士法30条の21において準用される弁護士法27条及び28条に違反した場合)についても弁護士法77条の適用があることを明確にするとともに,罰金刑の最高額が100万円から300万円に引き上げられました。
(3) 弁護士でない者に,自己の法律事件の示談解決を依頼し,これに,報酬を与えもしくは与えることを約束した者を,弁護士法72条,77条違反の罪の教唆犯として処罰することはできません(最高裁昭和43年12月24日判決)。
(4) 自己の法律事件の解決を弁護士でない者に依頼した者については,弁護士法72条違反の罪の共同正犯にもならないこととなります。
  なぜなら,最高裁昭和43年12月24日判決は,弁護士法は,自己の法律事件を自ら取り扱うことまで禁止しているものとは解されないとしているので,自己の法律事件を弁護士でない者に依頼した者が,弁護士法72条違反の罪の正犯となることはあり得ず,共同正犯にもならないからです。
(5) 以下の士業から依頼者の紹介を受けたり,以下の士業を利用したりした場合,弁護士職務基本規程11条に違反することとなります。
① 紛争の目的の価額が140万円を超える事件に関する相談,和解の交渉,和解契約の締結(例えば,140万円を超える過払金の返還請求)を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある司法書士
② 権利義務又は事実証明に関する書面の作成(行政書士法1条の2第1項参照)にかこつけて,交通事故・相続紛争等の示談交渉を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある行政書士
③ 以下の権限外行為を事実上行っていると疑うに足りる相当な理由のある社会保険労務士
(a) ADR手続の利用を前提とする,紛争の価額が60万円を超える労使紛争に関して,弁護士と共同受任することなく行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結
(b) ADR手続の利用を前提とする,解雇,退職,雇い止め等の効力を争う労使紛争に関して,弁護士と共同受任することなく行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結
(c) ADR手続の利用を前提としない労使紛争(紛争の価額は問わない。)に関して行う,相談,和解の交渉,和解契約の締結

3 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
(1) 総論
ア 弁護士法72条は以下のとおりです。
   弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
イ 最高裁大法廷昭和46年7月14日判決は,弁護士法72条の趣旨について以下のとおり判示しています。
  同条制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。
ウ 弁護士法72条違反の罪が成立するためには,前段についても,後段についても,①報酬を得る目的があること,及び②業として行うことが必要とされています(最高裁大法廷昭和46年7月14日判決)。
    そのため,例えば,大学の法学部等で教授,学生が継続的に無料法律相談を実施する場合,報酬を得る目的がないことから,本条に違反しません。

(2) 弁護士法72条のそれぞれの文言の意義
ア 「訴訟事件」とは,訴訟として裁判所に係属する民事,刑事及び行政の各事件をいい,人事訴訟事件(例えば,離婚訴訟事件)も含まれます。
  ちなみに,憲法32条にいう裁判とは,同法82条にいう裁判と同様に、現行法が裁判所の権限に属せしめている一切の事件につき,裁判所が裁判の形式をもってするすべての判断作用ないし法律行為を意味するものではなく,そのうち固有の司法権の作用に属するもの,すなわち,裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判だけをいいます(最高裁大法廷昭和45年12月16日判決)。
イ 「非訟事件」とは,裁判所が裁量によって一定の法律関係を形成する裁判をする事件をいい,例としては以下のものがあります。
① 地方裁判所が担当する借地非訟事件(借地借家法41条以下参照)
→ (a)借地条件の変更及び増改築の許可(借地借家法17条),(b)借地契約の更新後の建物の再築の許可(借地借家法18条1項),(c)土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可(借地借家法19条),(d)建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可(借地借家法20条1項)のことです。
   ちなみに,借地非訟事件における裁判に対しては,即時抗告をすることができます(借地借家法48条1項)。
② 家庭裁判所が担当する家事審判事件(家事審判法9条1項甲類及び乙類参照)
ウ 「行政庁に対する不服申立事件」とは,例示列挙されている審査請求,異議申立て及び再審査請求(行政不服審査法参照)のほか,例えば,弁護士会が行った,対象弁護士等(=懲戒の手続に付された弁護士又は弁護士法人)を懲戒しない旨の決定等に対する異議の申出(弁護士法64条)があります。
エ 「その他一般の法律事件」には,以下のものが含まれます。
① 債権者の委任により請求・弁済受領・債務免除等を行うこと(最高裁昭和37年10月4日決定
② 自賠責保険金の請求・受領に関するもの(東京高裁昭和39年9月29日判決)
③ 交通事故の相手方との間で示談交渉をすること(札幌高裁昭和46年11月30日判決)
④ 建物賃貸借契約の解除,及び賃借人の立退交渉をすること(広島高裁平成4年3月6日決定)
⑤ 真正な登記名義を回復する登記手続をすること(東京地裁平成6年4月20日判決)
⑥ 登記・登録に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑦ 税務に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑧ 特許等に関する各種申請(日弁連調査室の見解)
⑨ 裁判所以外の紛争処理機関に対する各種の申立て(日弁連調査室の見解)
オ 弁護士法72条の「法律事件」といえるためには,事件性のある案件,つまり,事件といわれる案件及びこれと同視できる程度に法律関係に争いがあって事件といいうる案件である必要があるかどうかについては,争いがあります。
  なお,日弁連調査室の見解のほか,東京高裁平成7年11月29日判決(埼玉司法書士会職域訴訟控訴審判決)は,事件性は不要であるとしています。
カ 弁護士資格等がない者らが,ビルの所有者から委託を受けて,そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為については,その業務が,立ち退き合意の成否等をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであって,弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものというべきであり,その際,賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いをしていたなどといった事情の下では,弁護士法72条違反の罪が成立します(最高裁平成22年7月20日決定)。
キ 「鑑定」とは,法律上の専門的知識に基づいて法律事件について法律的見解を述べることをいいます。
   「代理」とは,当事者に代わり当事者の名において法律事件に関与することをいいます。
   「仲裁」とは,当事者間の紛争を仲裁判断に基づき解決することをいいます。
   「和解」とは,争っている当事者に互いに譲歩することを求めて争いを止めさせることをいいます。
   なお,これらは,「法律事務」の例示と考えられますから,上記の定義に入らないものはすべて「その他の法律事務」に含まれるとされています。
ク 「業として」とは,反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱い等をし,それが業務性を帯びるに至った場合をいいます(最高裁昭和50年4月4日判決)。
ケ 「周旋」とは,訴訟事件の当事者等と弁護士との間に介在し,両者間における委任関係その他の関係成立のための便宜を図り,その成立を容易ならしめる行為をいい(名古屋高裁金沢支部昭和34年2月19日判決),現実に,委任契約等の契約関係が成立している必要はありません。
   周旋を「受け」とは,受諾する意思表示をすることであり,明示であると黙示であるとを問いません。
コ 弁護士法72条本文前段に抵触する委任契約は,民法90条に照して無効です(最高裁昭和38年6月13日判決)。
カ 昭和30年8月10日法律第155号(同日施行)による改正前の弁護士法7条は,外国の弁護士となる資格を有する者であって,最高裁判所の承認を受けて法律事務を行うことが認められていた者は,弁護士法72条ただし書所定の「この法律に別段の定めがある場合」に基づいて法律事務を取り扱っていました。
   しかし,昭和30年8月10日法律第155号による改正後は,該当する規定が弁護士法からなくなりました。

4 弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
(1) 総論
ア 弁護士法73条は以下のとおりです。
   何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。
イ 「他人」とは,不特定の者を対象に権利を譲り受ける場合のみならず,特定の者の債権の取立て,整理のために権利を譲り受ける場合を含みます。
   「権利」とは,債権だけでなく,物権その他いかなる権利をも含みます。
   「譲り受け」とは,売買,贈与その他法形式のいかんを問わず,他人の権利の移転を受け,自らに帰属させる行為をいい,有償であると無償であるとを問いませんし,権利実行により利益を得る目的の有無も問いません。
ウ 弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあります。
  このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではありません(最高裁平成14年1月22日判決)。
エ ゴルフ会員権の売買には,ゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し,その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実です。
  そして,ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業として,上記市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば,利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,弁護士法73条に違反するものではないと解されることがあります。
  そのため,ゴルフ会員権の譲受けの方法・態様,権利実行の方法・態様,譲受人の業務内容やその実態等を審理して,譲受人の行為が濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがないかどうかや弁護士法72条本文が禁止する預託金の取立て代行業務等の潜脱行為に当たらないかどうかなどを含め,社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるかどうかが判断されることとなります(最高裁平成14年1月22日判決参照)。
オ 弁護士法72条違反の委任行為は非弁行為の禁止の趣旨から無効と解すべきであって(最高裁昭和38年6月13日判決),同法73条も,同法72条と同趣旨の規定です。
   そのため,弁護士法73条の違反行為は,民法90条にも違反するものとして無効であると解されています(東京地裁平成16年11月26日判決等。なお,先例として,東京高裁平成3年6月27日判決)。

(2) サービサー法の位置づけ等
ア 債権管理回収業に関する特別措置法(平成10年10月16日法律第126号。平成11年2月1日施行)(=サービサー法)に基づき,法務大臣の許可(サービサー法3条)を受けた会社である債権回収会社(サービサー)は,弁護士法72条及び73条の特例として(サービサー法1条参照),業として,特定金銭債権(サービサー法2条参照)の管理及び回収をすることができます。
イ 債権管理回収業とは,弁護士又は弁護士法人以外の者が,①委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業,又は②他人から譲り受けて訴訟,調停,和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業をいいます(サービサー法2条2項)。
ウ 「弁護士は,係争の目的物を譲り受けてはならない。」(弁護士職務基本規程17条)とされています(弁護士法28条も同趣旨の規定です。)。
  そのため,取立てを目的とする債権譲受行為は,債権を譲り受けなければ,当該権利の実行に当たり支障が存在するなど,行為を正当化する特段の事情がない限り,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」に該当します(最高裁平成21年8月12日決定における裁判官宮川光治の補足意見参照)。
  よって,①サービサーの場合,他人から債権を譲り受けることができるのに対し,②弁護士の場合,他人から債権を譲り受けることができないという違いがあります。
エ 債権譲渡は,その原因行為(その要件事実)が要件事実と考えられるから,原因行為を売買とするときには,債権移転の対価として金銭支払が約されているという抽象的事実が要件事実になります。
   この抽象的事実が主張されれば,原因行為が売買であるとの法性決定が可能になり,相手方において,基本的に,抗弁(債権譲渡が請求原因である場合)主張が可能になると考えられるものの,相手方の訴訟上の攻撃防御の観点からは,当該抽象的事実に当たる具体的事実(主要事実)が主張されるべきと考えられます。
   ただし,どの程度の具体化した事実主張を要するかは,各事案における具体化の困難性や相手方が攻撃防御上被る不利益の程度によって決定されることとなると解されています(東京地裁平成22年6月25日判決)。
オ サービサー法及び弁護士法73条により譲受けが禁止されている債権とは,いわゆる事件性のある債権,すなわち,債務者において支払を遅延し回収困難の状態にあったものなど,債権が通常の状態ではその満足を受けられないものをいうと解されています(東京地裁平成23年6月27日判決。なお,先例として,福岡高裁昭和36年11月17日判決参照)。
カ 法務大臣の許可を受けないで,消費者金融会社から,通常の状態では満足を得るのが困難な貸付債権を譲り受け,同債権に関し,取立てのための請求をし,弁済を受けるなどしてその管理回収業を営んだ行為は,債権管理回収業に関する特別措置法33条1号,3条に該当します(最高裁平成24年2月6日決定)。

第6 非弁護士との提携の取締り

1 日弁連の,①多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規程(平成14年2月28日会規第48号。平成14年4月1日施行),及び②多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規則(平成14年3月15日規則第81号。平成14年4月1日施行),並びに③これらに関する運用指針に基づき,単位弁護士会が,非弁提携行為の取締りを行っています。
    なお,「多重債務処理事件にかかる非弁提携行為」とは,金融業者に対して多重に債務を負担する者から受任する任意整理事件,破産申立事件,民事再生申立事件,特定調停申立事件及びこれに類する事件について,弁護士又は弁護士法人が,弁護士法に違反して法律事務を取扱い,又は事件を周旋することを業とする者から,事件の紹介を受ける行為,これらの者を利用する行為,又はこれらの者に自己の名義を利用させる行為をいいます。

2 大阪弁護士会の場合,法七十二条等問題委員会規則(平成17年2月15日規則第163号。平成17年4月1日施行)に基づき,法七十二条等問題委員会が,非弁提携行為対策業務として,非弁提携行為の取締りを実施しています。

第7 戒告,業務停止,退会命令及び除名

0 総論
(1) 弁護士又は弁護士法人に対する懲戒処分があった場合,懲戒処分の主文が官報に掲載され,懲戒処分の主文及び理由の要旨が日弁連の機関紙である「自由と正義」に掲載されてます(日弁連会則68条参照)。
(2) 大阪弁護士会所属の弁護士又は弁護士法人に対する懲戒処分があった場合,懲戒処分の主文及び詳細な理由が大阪弁護士会の機関紙である「月刊大阪弁護士会」(毎月末日発行)に掲載されます。
   また,大阪弁護士会館13階の会員ロビー掲示板にも,懲戒処分の主文及び詳細な理由が掲載されます。
(3) 弁護士に対する懲戒処分は,それが対象弁護士に告知されたときにその効力が生じます(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。
(4) 憲法39条後段の規定は何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされるべきものではないという根本思想に基づく規定です(最高裁大法廷昭和25年9月27日判決)。
   そして,弁護士法に規定する懲戒は刑罰ではありませんから,被告人が弁護士法に規定する懲戒処分を受けた後,さらに同一の事実に基づいて刑事訴追を受けて有罪判決を言い渡されたとしても,二重の危険にさらされたものということはできません(最高裁昭和29年7月2日判決)。

1 戒告
(1) 戒告とは,対象弁護士に対し,その非行の責任を確認させて反省を求め,再び過ちがないように戒める懲戒処分をいい,懲戒処分の中では最も軽い処分です。
(2) 戒告を受けた弁護士は,処分の告知を受けた後も従前通り弁護士業務を行うことができますし,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うことはありません。
   ただし,戒告を受けた弁護士が所属している法律事務所は1年間,東京三弁護士会主催の司法修習生向け就職説明会に参加できなくなります(「司法修習開始前の日程」参照)などの効果を伴います。
   また,戒告の理由の要旨が「自由と正義」等に掲載されるため,自分の不祥事の内容が弁護士業界に広く知られることとなります。
   そのため,懲戒処分としての戒告は,軽い処分とはいえません。

2 業務停止
(1) 業務停止とは,対象弁護士に一定期間,弁護士業務を行うことを禁止する懲戒処分をいいます。
(2)   業務停止を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時から一定期間,弁護士業務を行うことができなくなります。
   ただし,退会命令及び除名と異なり,弁護士たる身分及び弁護士資格を失うわけではありません。
(3) 弁護士業務は,その性質上,高い信用の保持と業務の継続性が求められますところ,多数の訴訟案件,交渉案件を受任している弁護士が数か月間にわたる業務停止処分を受けた場合,その間,法廷活動,交渉活動,弁護活動はもちろんのこと,顧問先に係る業務を始めとして一切の法律相談活動はできず,業務停止処分により,従前の依頼者は他の弁護士に法律業務を依頼せざるを得なくなりますところ,進行中の事件の引継ぎは容易ではありません。
  また,懲戒を受けた弁護士の信用は大きく失墜しますし,業務停止期間が終了しても,いったん他の弁護士に依頼した元の依頼者が再度依頼するとは限らず,また,失墜した信用の回復は容易ではありません(最高裁平成19年12月18日決定における裁判官田原睦夫の補足意見参照)。
  そのため,懲戒処分としての業務停止は,非常に重い処分であるといえます。
(4) 弁護士業務を停止され,弁護士活動をすることを禁止されている者の訴訟行為であっても,その事実が公にされていないような事情のもとにおいては,一般の信頼を保護し,裁判の安定を図り,訴訟経済に資するという公共的見地から当該弁護士のした訴訟行為は有効とされています(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。

3 退会命令
(1) 退会命令とは,対象弁護士をその所属弁護士会から一方的に退会させる懲戒処分をいいます。
(2) 退会命令を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失います。
   ただし,除名と異なり,弁護士資格を失うわけではありません。
(3) 退会命令を受けた弁護士は,法的には,改めて入会を希望する弁護士会を通じて弁護士登録の請求をすることができます。
   しかし,「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性があるぐらい,重い処分です。

4 除名
(1) 除名とは,対象弁護士の弁護士たる身分を一方的に失わせる懲戒処分をいいます。
(2) 除名処分を受けた弁護士は,特に効力停止の決定を得ない限り,処分の告知を受けた時からその所属弁護士会を当然に退会して弁護士たる身分を失い,かつ,処分の告知を受けた日から3年間,弁護士資格を失います(弁護士法7条3号)。
(3) 除名された弁護士は,告知の日から3年が経過するまでの間,弁護士登録の請求をすることができません。
   また,告知の日から3年が経過してから弁護士登録の請求をした場合,「弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者」(弁護士法12条1項柱書)に該当するかどうかが特に審査され,当該おそれがあると判断された場合,入会しようとする弁護士会から日弁連への登録請求の進達を拒絶されることがあります。
(4) 懲戒処分としての退会命令は,弁護士生命を事実上終わらせる可能性が極めて高い,重い処分です。

第8 大阪弁護士会の懲戒手続

1 大阪弁護士会の綱紀委員会
(1) 懲戒の請求をした場合,弁護士会は対象弁護士を懲戒の手続に付し,綱紀委員会において事案の調査を行います(弁護士法58条2項)
   そして,弁護士会の綱紀委員会が,①懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をした場合,弁護士会が懲戒委員会に対し,事案の審査を求めます(弁護士法58条3項)のに対し,②懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当としない旨の議決をした場合,弁護士会は,対象弁護士を懲戒しない旨の決定をします(弁護士法58条4項)。
(2) 大阪弁護士会の綱紀委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ大阪弁護士会会長が委嘱します(弁護士法70条の3第1項前段)。
   この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は大阪弁護士会の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法70条の3第1項後段・弁護士法66条の2第1項後段)。
  ただし,任期が2年であること(弁護士法70条の3第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法70条の5)も含めて,毎年5月の定時総会決議(大阪弁護士会会則34条4号)において,選任に関する事項は常議員会に白紙委任されています(大阪弁護士会会則57条2号参照)。

2 大阪弁護士会の懲戒委員会
(1) 弁護士会の懲戒委員会は,事案の審査を求められた場合,対象弁護士を懲戒するかどうかを決定します(弁護士法58条5項及び6項)。
(2) 大阪弁護士会の懲戒委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ大阪弁護士会会長が委嘱します(弁護士法66条の2第1項前段)。
  この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は大阪弁護士会の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法66条の2第1項後段)。
  ただし,任期が2年であること(弁護士法66条の2第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法66条の4)も含めて,毎年5月の定時総会決議(大阪弁護士会会則34条4号)において,選任に関する事項は常議員会に白紙委任されています(大阪弁護士会会則57条2号参照)。

3 懲戒手続に関する大阪弁護士会の規程等
(1) 大阪弁護士会の場合,以下の規程があります。
① 大阪弁護士会会則(平成14年3月6日全部改正。平成14年4月1日施行)116条ないし124条
② 大阪弁護士会綱紀調査手続規程(平成16年2月2日会規第44号。平成16年4月1日施行)
③ 大阪弁護士会懲戒手続規程(平成16年2月2日会規第45号。平成16年4月1日施行)
(2) 大阪弁護士会所属の弁護士に対して懲戒処分があった場合,以下のとおり,懲戒処分を受けた弁護士の氏名等が以下のとおり公告されます(大阪弁護士会懲戒手続規程58条)。
   ただし,以下の「公告」は,マスコミ発表を伴う「公表」とは異なります(大阪弁護士会会則121条1項参照)。
① 月刊大阪弁護士会の「告示」欄への掲載
→ 月刊大阪弁護士会というのは大阪弁護士会の機関誌であり,毎月末日ぐらいに発行されています。
② 大阪弁護士会館13階の会員ロビー掲示板への掲載
→ (a)除名又は退会命令の場合は1年間,(b)業務停止の場合はその期間,(c)戒告の場合は2週間,掲載されます。

第9 日弁連の懲戒手続

1 日弁連の綱紀委員会
(1) 弁護士会の「綱紀」委員会が対象弁護士を懲戒しない旨の決定をした場合,日弁連に対し異議の申出ができ(弁護士法64条1項前段),異議の申出があった場合,日弁連は,綱紀委員会において異議の審査を行います(弁護士法64条の2第1項)。
   そして,日弁連の綱紀委員会は,①弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をしたり(弁護士法64条の2第2項),②異議の申出を却下又は棄却する旨の議決をしたりします(弁護士法64条の2第5項)。
(2) 日弁連の綱紀委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ日弁連の会長が委嘱します(弁護士法70条の3第2項前段)。
   この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は日弁連の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法70条の3第2項後段・弁護士法66条の2第2項後段)。
   ただし,任期が2年であること(弁護士法70条の3第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法70条の5)も含めて,毎年5月の定時総会決議(日弁連会則34条3号)において,選任に関する事項は理事会に白紙委任されています(日弁連会則59条6号参照)。

2 日弁連の綱紀審査会
(1) 異議の申出の却下又は棄却に対して不服がある場合,日弁連に対し,綱紀審査会による綱紀審査の申出ができます(弁護士法64条の3)。
  そして,日弁連の綱紀審査会は,①弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする旨の議決をしたり(弁護士法64条の4第1項),②綱紀審査の申出を却下又は棄却する旨の議決をしたりします(弁護士法64条の4第4項及び第5項)。
(2) 綱紀審査会は平成15年7月25日法律第128号(平成16年4月1日施行)による弁護士法改正により日弁連に設置された機関であり,法曹三者(=裁判官,検事及び弁護士)以外の11人の学識経験者で構成されています(弁護士法71条の2及び71条の3)。
(3) 日弁連の綱紀審査会の委員は,日弁連の会長が日弁連の総会の決議に基づき,委嘱します(弁護士法71条の3第1項)。
  ただし,任期が2年であること(弁護士法71条の3第2項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法71条の5)も含めて,毎年5月の定時総会決議(日弁連会則34条3号)において,選任に関する事項は理事会に白紙委任されています(日弁連会則59条6号参照)。

3 日弁連の懲戒委員会
(1) ①弁護士会の「懲戒」委員会が対象弁護士を懲戒しない旨の決定をした場合,又は②弁護士会がした懲戒の処分が不当に軽い場合,懲戒請求者は,日弁連に対し,異議の申出ができ(弁護士法64条1項後段),異議の申出があった場合,日弁連は,懲戒委員会において異議の審査を行います(弁護士法64条の5第1項)。
   そして,日弁連の懲戒委員会は,①弁護士会の懲戒しない旨の決定を取り消して対象弁護士を懲戒したり(弁護士法64条の5第2項),②弁護士会の懲戒の処分を取り消してより重い処分に変更したり(弁護士法64条の5第4項),③異議の申出を却下又は棄却したりします(弁護士法64条の5第5項)。
(2) 弁護士会の懲戒委員会が対象弁護士を懲戒する旨の決定をした場合,対象弁護士は,日弁連に対し,審査請求ができ(弁護士法59条),審査請求があった場合,日弁連は,懲戒委員会において弁護士会の懲戒処分の当否を審査した上で,審査請求を却下したり,棄却したり,弁護士会の懲戒処分を取り消したり,変更したりします(行政不服審査法40条参照)。
(3) 日弁連の懲戒委員会の委員は,弁護士,裁判官,検察官及び学識経験のある者の中から,それぞれ日弁連の会長が委嘱します(弁護士法66条の2第2項前段)。
  この場合,①裁判官又は検察官である委員はその地の高等裁判所若しくは地方裁判所又は高等検察庁検事長若しくは地方検察庁検事正の推薦に基づき,②その他の委員は日弁連の総会の決議に基づき,委嘱する必要があります(弁護士法66条の2第2項後段)。
 ただし,任期が2年であること(弁護士法66条の2第3項)とあいまって,予備委員の選任(弁護士法66条の4)も含めて,毎年5月の定時総会決議(日弁連会則34条3号)において,選任に関する事項は理事会に白紙委任されています(日弁連会則59条6号参照)。

4 懲戒手続に関する日弁連の規程
   日弁連の場合,以下の規程があります。
① 日弁連会則(昭和24年7月9日制定。昭和24年9月1日施行)68条ないし73条
② 綱紀委員会及び綱紀手続に関する規程(平成15年11月12日会規第57号。平成16年4月1日施行)
③ 綱紀審査会及び綱紀審査手続に関する規程(平成15年11月12日会規第58号。平成16年4月1日施行)
④ 懲戒委員会及び懲戒手続に関する規程(平成15年11月12日会規第59号。平成16年4月1日施行)
⑤ 懲戒処分の公告及び公表等に関する規程(平成15年11月12日会規第60号。平成16年4月1日施行)
→ 弁護士の懲戒処分は,官報をもって公告される(弁護士法64条の6第3項)ほか,日弁連の機関雑誌(日弁連会則7条参照)で公告されています(日弁連会則68条)。
  なお,日弁連の機関雑誌は「自由と正義」というタイトルの月刊誌であり,一般の人にも販売されています。
⑥ 弁護士会の懲戒の通知に関する規程(平成15年11月12日会規第61号。平成16年4月1日施行)
→ 弁護士法64条の6第2項及び64条の7第1項に基づく,弁護士会の懲戒の処分及び手続に関する日弁連への通知に関する事項を定めた規程です。
⑦ 被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準(平成4年1月17日日弁連理事会議決)
→ 弁護士が業務停止の懲戒処分を受けた場合,業務停止の期間中,①依頼者との委任契約を解除したり(業務停止期間が1ヶ月以内の場合を除く。),②顧問契約を解除したり,③補助弁護士(=復代理人又は雇傭する等した弁護士)の監督ができなくなったり,④原則として事務所の使用ができなくなったり,⑤法律事務所の表示を除去したり,⑥弁護士の肩書等のある名刺等を使用できなくなったり,⑦弁護士記章及び身分証明書を日弁連に返還したり,⑧会務活動ができなくなったり,⑨公職等を辞任したりする必要があります。

5 自由と正義の懲戒公告等に関する裁判例
   東京地裁平成23年9月29日判決は,自由と正義の懲戒公告等について,以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行は私が行ったものです。)。
① 弁護士会は,弁護士法の規定に基づいて委託を受けた公権力の行使として弁護士に対する懲戒を行うものであり,弁護士会が被告日本弁護士連合会に対し弁護士に対する懲戒をした旨の報告をする行為は,弁護士に対する懲戒の一環を成すものとして弁護士会の所掌事務の範囲に含まれるということができるところ,この報告行為は,それによって直接国民の権利を制限し又は国民に義務を課すなどするものではないから,特別な法令上の根拠なくして適法にすることができるというべきである。
   そして,弁論の全趣旨によれば,被告日本弁護士連合会が弁護士会から弁護士に対する懲戒をした旨の報告を受けたことを同被告の機関雑誌「自由と正義」に掲載して公告をする行為は,依頼者その他の者が弁護士の身分を失った者又は弁護士の業務を行うことができない者に対して法律事務を委任することがないようにし,併せて他の弁護士が同種の非行に及ぶことを予防することを目的とするものであると認めることができるのであって,弁護士の使命の重要性,職務の社会性等に鑑みると,その公表目的の正当性及び公表の必要性が認められ,それにつながるものである弁護士会が被告日本弁護士連合会に対し弁護士に対する懲戒をした旨の報告をする行為についても,その報告目的の正当性及び報告の必要性を肯定することができる。
  また,被告日本弁護士連合会の上記公告行為は,法曹関係者等をその主要な閲読者とする同被告の機関雑誌「自由と正義」を媒体として,懲戒を受けた弁護士の氏名,登録番号,事務所,住所,懲戒の種別,処分の理由の要旨,処分の効力の生じた日を公表するものであって,公表手段及びその態様の相当性を肯定することができるというべきである。
② もっとも,上記弁護士会の報告行為が弁護士に対する懲戒をした事実を不特定多数の者に摘示するものにほかならないことは上記のとおりであって,一たび懲戒を受けた事実が不特定多数の者に摘示されれば当該弁護士の社会的評価が著しく低下することとなることを考慮すると,当該懲戒が弁護士会の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる違法なものである場合において,当該報告行為をした弁護士会において当該懲戒が違法なものではないと信じたことにつき相当の理由もないようなときには,弁護士会は,弁護士の名誉を毀損する違法な報告行為をしたものとして,それにより当該弁護士に生じた損害を賠償し又は当該弁護士の名誉を回復するのに適当な措置を執る義務を負うと解するのが相当である。

第10 弁護士の懲戒処分と取消訴訟

1 日弁連の懲戒委員会が審査請求を却下又は棄却した場合,対象弁護士は,東京高裁に対し,日弁連の裁決の取消しの訴えを提起することができます(弁護士法61条1項)。
  そして,東京高裁の事務分配において,日弁連の裁決の取消しの訴えについては,東京高裁第4特別部が担当しています。

2 弁護士を懲戒する権限は所属弁護士会及び日弁連に属し,弁護士法61条1項の訴訟で東京高等裁判所が判断するのは弁護士を懲戒するかどうかではなく,弁護士会又は日弁連がした懲戒処分の当否であります。
   そのため,懲戒処分があった後に懲戒請求者と被請求弁護士との間に示談が成立したとしても,このような事実は懲戒処分の当否とは関係がありませんから,裁判に際し斟酌されるべき事実ではありません(最高裁昭和34年12月4日判決)。

3(1) 弁護士法は,弁護士を懲戒するかどうかは単位弁護士会又は日弁連の自主的な判断に委せ,懲戒しないとした場合でも,裁判所への懲戒の訴求までは許されないと解されています(最高裁昭和38年10月18日判決参照)。
(2)   
弁護士の懲戒制度は,弁護士会又は日弁連の自主的な判断に基づいて,弁護士の綱紀,信用,品位等の保持をはかることを目的とするものでありますものの,弁護士法58条所定の懲戒請求権及び同法64条所定の異議申出権は,懲戒制度の目的の適正な達成という公益的見地から特に認められたものであり,懲戒請求者個人の利益保護のためのものではありません。
  それゆえ,懲戒請求者が日弁連の異議申出を棄却する旨の裁決に不服があるとしても,法律に特に出訴を認める規定がないかぎり,裁判所に出訴することは許されないところ,右につき出訴を認めた法律の規定がありませんから,日弁連のした裁決の取消しを求めて東京高等裁判所(弁護士法61条1項参照)に訴えを提起しても,不適法なものとして却下されます(最高裁昭和49年11月8日判決)。

第11 弁護士に対する不当な懲戒請求をした場合の責任

1 弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成します(最高裁平成19年4月24日判決)。
   ちなみに,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られます(最高裁平成21年10月23日判決及び最高裁平成22年7月9日判決。なお,先例として,最高裁昭和63年1月26日判決及び最高裁平成11年4月22日判決参照)。
    つまり,弁護士に対する懲戒請求は,民事訴訟の提起と異なり,相当性を欠くと認められる限り不法行為を構成するということです。
 
2 弁護士に懲戒の処分を受けさせる目的で,虚偽の申告をした場合,虚偽告訴罪として3月以上10年以下の懲役に処せられます(刑法172条)。
   なお,虚偽の申告とは,申告の内容をなすところの刑事・懲戒の処分の原因となる事実が客観的真実に反することをいいます(最高裁昭和33年7月31日決定)。

3 患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまります(最高裁平成23年2月25日判決)。
   そのため,依頼者が適切な弁護活動を受けることができなかった場合に,弁護士が,依頼者に対して適切な弁護活動を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該弁護活動が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまると思われます。

第12 懲戒手続の除斥期間

1 総論
(1) 懲戒の事由があったときから3年を経過した場合,弁護士会が「懲戒の手続」を開始することはできない(弁護士法63条)ところ,3年の期間は除斥期間ですから,停止事由等はありません。
(2) ①長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪の公訴時効は3年ですし,②弁護士の預かり書類の消滅時効は3年である(弁護士法171条)。
   そのため,事件終了の時から3年を経過した場合,非行行為に関する書類がない場合がありうることは,3年という除斥期間を定めた理由の一つとされています。

2 除斥期間の始期
(1) 除斥期間の始期は,「懲戒の事由があったとき」,つまり,懲戒事由に当たる行為が終了したときであり,継続する非行についてはその行為が終了した時です。
(2)ア   弁護士が依頼者から又は依頼者のために預かった金品を返還すべき時期に依頼者に返還しないという行為は,それ自体,依頼者の弁護士に対する信頼,ひいては国民一般の弁護士全体に対する信頼を破壊するものとしてその品位を失うべき非行に当たりますから,返還するまでの間,非行は継続していると解されています(東京高裁平成13年11月28日判決参照)。
イ 依頼者と弁護士の委任関係が終了した場合,その終了時に預かった金品等の清算がなされるのが通常であることや委任事務に係る資料の保存にも限度があること,委任関係が終了した後もいつまでも懲戒しうるというのでは弁護士は極めて不安定な立場に置かれることとなり,除斥期間を設けた法の趣旨に反することにもなることから,弁護士から依頼者から又は依頼者のために預かった金品を横領するなどしてこれを返還しない場合であっても,委任関係が終了したときは,その終了の時点から除斥期間が開始すると解されています(東京高裁平成13年11月28日判決参照)。
(3) 数個の非行事実が連続して存在する場合,それぞれの行為について除斥期間が進行するのか,それとも連続した一連の行為として包括的な一つの行為とみなし,これら数個の行為全部の終了時をもって除斥期間の始期とみるべきかは,具体的事案によって判断されます。

3 「懲戒の手続」の意義
(1)ア 日弁連は従前,「懲戒の手続」は懲戒委員会の審査手続だけをいうのであって,綱紀委員会の調査手続はこれに含まれないという解釈(現定説)を採用していました。
   しかし,平成11年3月19日付の理事会決定により,「懲戒の手続」には綱紀委員会の調査手続が含まれるという解釈(非限定説)に変更しました。
   そして,同年6月9日付で,日弁連会長から各弁護士会会長宛の「弁護士法第63条及び第64条の解釈について(通知)」と題する文書において,各弁護士会においてもこの解釈に従うように通知しました。
イ 当時の弁護士法63条及び64条は現在,弁護士法62条及び63条です。
(2) 平成16年4月1日施行の,司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律(平成15年7月25日法律第128号)は,弁護士法58条2項において,懲戒請求があった場合に弁護士会が「懲戒の手続」に付して,綱紀委員会に事案の調査をさせる旨を規定していますところ,これは非限定説を前提としたものと解されています。
(3) 懲戒事由があった日から3年を経過する前に綱紀委員会の調査手続に付されていた場合,除斥期間は問題とならなくなります。
(4) 懲戒請求先の弁護士会がいつ,綱紀委員会の調査手続に付したかどうかについては,懲戒請求者が懲戒請求先の弁護士会に対し,綱紀委員会の事件番号(例えば,平成29年(綱)第1234号)及び対象弁護士の氏名を告知すれば,電話で教えてくれることがあります。

第13 東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続

東京弁護士会の綱紀・懲戒の手続については,東弁リブラ2010年7月号「綱紀・懲戒-綱紀委員会から7つのメッセージ- 総論:綱紀・懲戒制度の概要」が非常に参考になります。

第14 弁護士の懲戒請求事案集計

1(1) 弁護士の懲戒請求事案集計(平成5年以降)を掲載しています。
   日弁連HPの「基礎的な統計情報2010」では,平成13年以降の懲戒等の件数しか記載されていないのに対し,私のデータは,平成5年以降の懲戒等の件数を記載しています。
(2) 日弁連HPには,「2015年懲戒請求事案集計報告」及び「2016年懲戒請求事案集計報告」が掲載されています。

2 年度のずれを無視した場合,懲戒委員会の審査が開始した場合の懲戒処分率は以下のとおりです。
平成5年:42.6%,平成6年:44.6%,平成7年:78.0%,平成8年:60.0%
平成9年:62.3%,平成10年:55.1%,平成11年:57.1%,平成12年:47.7%
平成13年:66.7%,平成14年:55.0%,平成15年:83.1%,平成16年:52.1%
平成17年:56.4%,平成18年:60.0%,平成19年:50.7%,平成20年:53.6%
平成21年:57.6%,平成22年:60.6%,平成23年:58.4%,平成24年:59.0%
平成25年:55.4%,平成26年:55.5%,平成27年:52.2%,平成28年:59.7%

3 弁護士の懲戒件数等は以下のとおり推移しています。
(1) 懲戒請求の新受件数の推移
平成5年:439件 平成6年:517件 平成7年:576件 平成8年:485件
平成9年:488件 平成10年:715件 平成11年:719件 平成12年:1030件
平成13年:884件 平成14年:840件 平成15年:1127件 平成16年:1268件
平成17年:1192件 平成18年:1367件 平成19年:9585件 平成20年:1596件
平成21年:1402件 平成22年:1849件 平成23年:1885件 平成24年:3898件
平成25年:3347件 平成26年:2348件 平成27年:2681件 平成28年:3480件
(2) 懲戒の件数の推移
平成5年:23件 平成6年:25件 平成7年:39件 平成8年:27件
平成9年:38件 平成10年:43件 平成11年:52件 平成12年:41件
平成13年:62件 平成14年:66件 平成15年:59件 平成16年:49件
平成17年:62件 平成18年:69件 平成19年:70件 平成20年:60件
平成21年:76件 平成22年:80件 平成23年:80件 平成24年:79件
平成25年:98件 平成26年:101件 平成27年:97件 平成28年:114件
(3) 戒告の件数の推移
平成5年:12件 平成6年:15件 平成7年:17件 平成8年:16件
平成9年:11件 平成10年:19件 平成11年:17件 平成12年:17件
平成13年:34件 平成14年:28件 平成15年:27件 平成16年:23件
平成17年:35件 平成18年:31件 平成19年:40件 平成20年:42件
平成21年:40件 平成22年:43件 平成23年:38件 平成24年:54件
平成25年:61件 平成26年:55件 平成27年:59件 平成28年:60件
(4) 業務停止の件数の推移
平成5年:4件 平成6年:6件 平成7年:15件 平成8年:7件
平成9年:23件 平成10年:20件 平成11年:27件 平成12年:16件
平成13年:24件 平成14年:32件 平成15年:25件 平成16年:21件
平成17年:22件 平成18年:33件 平成19年:28件 平成20年:15件
平成21年:30件 平成22年:29件 平成23年:35件 平成24年:23件
平成25年:29件 平成26年:37件 平成27年:30件 平成28年:47件
(5) 退会命令の件数の推移
平成5年:4件 平成6年:2件 平成7年:5件 平成8年:3件
平成9年:1件 平成10年:2件 平成11年:5件 平成12年:7件
平成13年:4件 平成14年:3件 平成15年:3件 平成16年:3件
平成17年:3件 平成18年:2件 平成19年:1件 平成20年:2件
平成21年:5件 平成22年:7件 平成23年:2件 平成24年:2件
平成25年:6件 平成26年:3件 平成27年:5件 平成28年:3件
(6) 除名の件数の推移 
平成5年:3件 平成6年:2件 平成7年:2件 平成8年:1件
平成9年:3件 平成10年:2件 平成11年:3件 平成12年:1件
平成13年:0件 平成14年:3件 平成15年:4件 平成16年:2件
平成17年:2件 平成18年:3件 平成19年:1件 平成20年:1件
平成21年:1件 平成22年:1件 平成23年:5件 平成24年:0件
平成25年:2件 平成26年:6件 平成27年:3件 平成28年:4件

1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
 
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。